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- 本日の営業は終了です -


小さな歯科の医院長をしている
と、言ってもスタッフは僕を入れて二人だけ
前にここで開業していた歯科医が年の関係で医院を締めると聞いたので
ちょうど独立して開業しようと考えていたところだった僕はすぐに連絡を取った
建物だけでなく設備すべても、もう要らないからと優しそうなお爺ちゃん先生から譲り受け
普通より安く自分の病院を開くことができた
前任の先生より患者も引き継いだが、開業から２年ほど
この土地に僕も慣れてきたし、患者さんも僕を信用して通院してくれる方が増えた
何故だか女性客が多くなった気がする、気のせいかもしれない
まぁ、自分は女性を愛してやれない人種なので今のところ問題はない

僕の最近気になる人物は、

裏口から｢こんばんはー｣っと声がする
僕は片づけの手を止めて内ばきのサンダルをパタパタ言わせて声の方へ
同じように｢こんばんは｣と返して、客用のスリッパを出した
｢どうも｣っと自分と同じ年の歯科技工士は小さく頭を下げた
彼はこの地域担当の歯科技工士だ
前に働いていた医院では技工士が直接納品に来なかったが、今契約してる所は技工士が直接来てくれる
なので、型の指示を細かく伝えれるので僕としては嬉しいかぎりだ
それに加え、僕は彼にとてもひかれている
少し無愛想な態度だけど、それも可愛らしい
｢遅くなってすいません、これ、今日の分です｣
言って型と患者名前と制作箇所の書かれた物がビニールパックに入ってたセットを手渡された
｢はい、わかりました｣
｢長門さんはもう帰られたんですか？｣
｢えぇ、今日は予定があるとか｣
キョロキョロと周りを伺う姿は小動物じみて可愛らしい
長門さんは僕と働く優秀な歯科衛生士だ
普段は物静かだが彼のことは気に入ってるのかたまに笑顔を浮かべているのを見たことがある
基本的に人に好かれるタイプなんだろう
｢僕一人ですが、どうぞ｣
さりげなく肩に触れ、中に入るように促す
前回彼が来たときに検診をすると約束をとりつけてあった
｢良いんですか？｣
｢えぇ、大丈夫です。それとも、長門さんが居る方が良かったですか？｣
｢そんな事は…じゃぁ、お願いします｣
一瞬思考するように瞳が揺れたが、席に着いた彼にエプロンを掛けてやった


｢異常ありませんね、歯石もありませんし綺麗な歯並びです｣
シートを起こしてやりながら、にっこりと笑いかける
小さな銀のコップを持った彼は言葉は出さずに頭をさげて水を口に含んだ
口を濯ぎ口元を手の甲で拭っているのを見て思った、
あぁ、これでまた普段と同じになるのか、何か切っ掛けをっと考えていたのに
せめて軽度の虫歯でもあれば…なんて思考が一瞬頭をよぎっり歯科医にあらぬ不謹慎さに自分でも驚いた
彼に何を期待しているんだ
顔を見られたら考えがばれてしまうんじゃないかと顔を伏せた
｢先生？｣
声の方へ目を向けると、すぐ近くに彼の顔
ドキリと胸が強く跳ねた
動揺を隠すように後ろに回って、でも名残惜しいからゆっくりとエプロンの紐をといてやった
｢あの、恋人とかいらっしゃるんですか？｣
｢え？｣と、体をひねり此方を見た彼
｢いぇ、同い年なので気になって……や、何でもないです。プライベートに入った話でしたね、すいません。はい、ではお疲れさまです｣
｢……支払いを、一応カウンターの方に回りますね｣
彼は少しうつむき気味に席を立った、自分で撒いた種に後悔が押し寄せる
そもそも、僕が好意を寄せるのは自由だが彼が受け入れるのも自由
普通に考えてノーマルだろうし…
溜息が出そうなのを押さえてカウンター外に回った彼に料金を伝える
手渡されたお札からお釣りを返す
｢どうぞ｣っと差し出した手に彼の手が触れる
あっと思ったときには、お釣りを持った手が捕まれていた。正確には手のひらで包まれるように
｢古泉先生、俺、外で待ってますからご飯でも行きましょう｣
｢え？｣
今度は僕の方が驚いた顔をして彼を見つめる
カウンター越しに軽く身を乗り出した彼が近い距離でいった

｢俺、今フリーなんで彼氏募集中なんです｣

意味あり気な言葉、一瞬止まった思考が急激に動き出す
｢僕に隙を見せちゃって良いんですか？｣
｢…隙間に入って欲しいんです｣
あぁ、照れ笑いを浮かべた彼はなんて可愛らしいんだろう