黒火「僕の家政夫さん」
火神くん(ショタ)が、家政夫さんだったらパロです。
苦手な方はスルーしてください。
書きたいところだけ書いたので、火神くんほとんど出てきません。
- 僕の家政夫さん -
職業小説家。20代後半。名前は黒子テツヤ。独身。マンションに一人で暮らしているが、先日、仕事の締め切りに追われ、4日程、食事もろくに採らずに執筆作業をしていたところ倒れた。
飽食の時代に餓死でもするつもりか!っと、運ばれた先の病院にて、こっ酷く叱られた。これもまた小説のネタにしようと、思うぐらいには職業病も患っている。そのあと、倒れた僕を発見してくれた担当編集の方に、泣きながら怒られた。「申し訳ないです・・・」と、頭を下げつつ、人間はやはり、固形のものを食べないとダメなんだなっと、考えていた。だけど、食べることを忘れていた数日の間に弱った僕の胃腸は固形物を拒み、数日はドロドロのおかゆとも取れないものを流し込むにとどまった。
赤ん坊の離乳食みたいな、味の薄い、米粒の形が溶けたような食べ物に、食にあまり関心のない僕も流石に懲りた。それと、入院中の部屋であまり執筆作業がはかどらなかったのも、僕に堪えた。大学生時代から好きが高じてデビューをし、家族以外には何の仕事をやっているかも伝えずに、ここまでやってきた。
初めは学生のアルバイトにでもなれば良いと気軽な思いつきだったように思う。本が読むのが好きで、ある日、思い浮かんだミステリー小説を書いた。処女作にしては、なかなかのページ数になった。読みたいと思った謎解きがパズルのように、ハマっていく作業はとても楽しく、折角書いたのだから送ってみるのも良いかもしれないと、送った出版社から連絡が来て学生の内にデビューした。それから、学生時代から授業の合間に執筆をして、学生でありながらも本を数冊出してもらい就職活動もせず、職業小説家となった。
学生の肩書がなくなってからは、これで食べていくのかっと、不安になることもなく、書きたいものは次々と浮かび、それをノートパソコンに打ち込み暮らしている。時々やってくる担当編集の方からの差し入れや、ネットで頼んでいる食材の配達。たまに本屋やレンタルショップに行くぐらい外との交流も殆どない。
周りの友人にも職業を秘密にしているし、新刊が発売した際の雑誌の取材なども、顔を出さないことを約束して、細々と活動している。友人らは、僕が出版関係で働いていることぐらいは知っているようだ。
ギリギリ朝に起きて、食パンを一枚食べ、コーヒーを一杯飲みつつ、昨日の執筆したところを一通り見直す。それから、メールなどの連絡事項を済ませてから、まずは頭の中をフラットにするために、映画を見たり、本を読む。その後、気まぐれに執筆へ入る。時間も決められていないまま、浮かんだものを打ち続ける。食事もお腹が空いたら、空腹が紛れればよく、こだわりなく適当に食べた。
たまに行く本屋だったり、編集の方から聞く感じからして、それなりに僕の本は、ありがたいことに人気があるみたいだ。
そんな生活を続けて、数年。初めて倒れた。これは、20代後半で、老い始めたのかもしれない。昔から体力がある方ではなかったが、バスケなどをしていて、何もしてない人よりは丈夫に過ごせていたのかもしれない。普段の執筆や、食生活、運動不足から、衰え、衰退していくのかもしれない。それに、また倒れて、小説が書けなくなったらと思ったら恐ろしくなったりもした。
僕はあまり考えていることを表情に出さない人間だが、長年の付き合いでソレを読み取った担当さんが「結婚なんてしてみてはどうですか?」と、言った。
外との繋がりはほぼない、確かにこの頃、周りの友人たちがポロポロと結婚し始めた。家族だけで式を上げました、だとか、入籍して子供が出来ましたっとハガキが届いたり。仲の良い友人の式に出席して、「あぁ、あいつも結婚したんだなぁ」と、思うぐらいが僕の結婚の興味の無さが計り知れた。
完全に、自分が結婚をするような人間だとは到底思っていなかった。考えたこともなかった。最近はめっきり連絡もしていないが実家に顔を出せば両親は「結婚は?」と、聞いてくることもあったが、スルリとかわしてきていた。
担当さんの言葉で、そうか結婚かっと、動き出せるような人間でもない。困った顔が珍しく出ていたのか、担当さんが、「あっ、別にセクハラ発言じゃないですよ!?」と、慌てた。
「結婚なんて、僕にできますかね。それに、出会いもないし、今悩んでいるのは、僕の食生活の見直しと言いますか・・・」
歯切れの悪い言葉を、差し入れのゼリーを口にして誤魔化す。向かいに座っている担当の降旗くんは、僕と同い年の彼も同じようにムグムグとゼリーを口にした。たまにこうやってやってきては、何か土産を持ってきてくれる。今日はまだまだ暑い日の続く今にぴったりの涼しげなゼリー。
倒れたときも何かを持ってきてくれていたが、それは何か知らない。優しそうで、少し困った顔の彼が、急に何かひらめいたのか、「あっ」と、声を上げた。
「それなら、家政婦なんてどうですか?」
「僕の知り合いに、家政婦を派遣している人が居まして、この頃結構人気らしいです。確か、先生家事も苦手でしたよね?」
前に珍しく出版社のパーティーに参加せざるおえなくなり、久しぶりにスーツを取り出したはいいが、Yシャツのアイロンの掛け方がわからず、彼に連絡したのを覚えていた。あの時は、適当にネットで調べればよかったと後になって思ったが、今もこうやって覚えられているとは。
食事も、一人暮らしが長いものの、料理の腕前は全くだ。口に入ればいい程度の考えだった。よくもまぁ、今まで倒れなかったものだ。掃除洗濯も、たまったらやるぐらい。顔を見に来た降旗くんが見かねて洗濯をまわしてくれることも、実はある。生活力が無いんだなっと、確かに家事は苦手・・・というか、億劫である。生きれる最低ラインで、極力燃費良く。
「また倒れられても、困りますし、長く作家活動してもらえると、こちらとしても嬉しいし、先生としても、友人としても、健康は願っています。それに、入院されて、食の大事さが身に染みたんですよね?」
そう言って、振り返った先のキッチンには、昼に食べたインスタント食品のカップが洗ってひっくり返してある。健康は食生活から。できたら適度な運動もっと、言われた。
「とりあえず、話だけでもどうですか?住み込みもあるみたいですよ」
倒れてから多少弱った思考回路だったのか、彼の勧められるままに、「じゃぁ、まずは、話だけでも」と、家政婦の申し出を受け入れた。すぐに行動を起こした彼が、目の前で家政婦を派遣している友人のところへ電話を掛けた。2・3質問されているのか答えると「二日後って、予定大丈夫ですか?」と、話口を口から少し話して問われたので、「いつでも」と、答えた。
話はトントンと纏まり、そして、僕は約束した二日後が来るまでの間も、結局は変わらない日常を送った。朝起きて、食パンから始まり、パソコンへ向かい、お腹が空いたら適当な食事。
あの時は、たまたま締め切りに追われ数日物を食べなかったから倒れただけなんじゃないのか。家政婦なんて雇わなくとも、今後もこのまま生活していけるんじゃないかと思ったころに、彼はやってきた。
数時間前、降旗くんから「伺う予定でしたが、仕事で行けなくなりました」と、詫びの連絡が入っていた。どうやら、僕のところに来る前に、違う作家さんのところへ現行の進捗状況を伺いに行ったら作家は泣きながら白紙のページ数を口にしたらしい。
「数日前から、連絡取っても、微妙にモゴモゴとして、何か隠してると思ったんですが、締切目前で、こんなことに。今日は付きっ切りで××先生のケアを任されてしまったので、本当にすみません」
たぶん、電話越しでも、ペコペコと頭を下げているんだろうと、彼の姿を思い浮かべて、「大丈夫ですよ、ありがとうございます」と、返した。それから、多少労いの言葉をかけて、また連絡すると伝えた。ついでに、僕の小説の進捗状況も伝え、メールを入れておくと仕事のことも忘れずに。
約束の時間になり、ピンポーンっと、インターフォンが鳴った。「はいはい」と、思わず口にしながら、インターフォン前の映像が映された画面を覗いた。そこには、何も映っていなかった。おや?っと、思いつつも、僕は玄関へ向かい、「どちら様ですか?」と、チェーンロックはかけたまま、ソッと扉を開いた。カチョンッと扉が鳴り開いた先。少々目線の下に、赤色の髪の少年が立っていた。
「初めまして、火神大我だ!今日から、お前の家政夫しに来た!」
そういって、首元に下げた社員名と、派遣先の証明カードのようなものを掲げ、僕に見えるようにした彼はピカピカの笑顔でコチラを見上げてきた。もう片方の手には掃除用具。背中には大きなリュックを背負い、「なぁ、荷物が重くて転がっちゃいそうだから、まず、入っていいか?」と、伺ってくる。僕は僕で、突然の少年の登場に驚いて、不用心にも、扉を開けてしまっていた。
一度締めて、チェーンロックを外し、開けた先に、もしかしたら、全く別の人物。たとえば強盗などが立っていたかもしれないが、そんなことはなく、やはり少年が、「ありがとう!」と、「お邪魔します!」と口にして入ってきた。
少年は靴を脱ぎ、行儀よく外へ向けて靴をそろえた。ついでに僕の靴も揃え、満足そうに「キレイになったな!」と、僕を見上げた。
「あの・・・君は、えっと・・・」
「火神大我だ!よろしくな。今日からお前の家政夫だ。緑間から、言われてきた!」
「僕はまだ、説明を聞くだけの予定だったんだけど、契約の事とかわかる大人の人はいないのかな?」
腰をかがめ、彼の顔を見ると、「あっ、そうだった!悪い悪い。ちょっと、ベランダから呼ぶな」と、彼は、真っ直ぐに突き当たりのベランダへと向かい、カーテンと窓を開け、手すりから下を覗き込んだ。後を追う、僕も、彼の見下ろした先を覗き込んだ。
マンションの下の道路脇に停めた車に寄り掛かるようにして、緑色の髪のスーツの男性がこちらを見上げていた。
「緑間ぁ~!契約の説明、してやんなきゃだよ!早く来て!」と、呼びかけられた男性が、メガネをクイッと掛けなおす仕草をし、小さく手を上げたのを見た。車の窓をノックして、中の人に何か話している。中から手渡された書類を手にし、緑間と呼ばれた男性が、「今行く」とでも言うように、上を指差した。
今度は、先ほどの男性がやってきて、丁寧な挨拶と、名刺を手渡された。前もって降旗くんから社名は聞いていたので、部屋に通し、冷えたお茶を出した。
「おかまいなく」と、丁寧な説明で、家政婦派遣について説明をしてくれた。横に一緒に腰掛ける少年が、楽しそうに、相槌や注釈を入れる。「俺、料理得意だよ!」と、元気な声に、そうかそうかと、微笑ましく表情が緩む。
話を聞いたところ、この会社の家政婦派遣は、小人族の人間を家政婦登録し派遣しているらしい。小人族は、成人しても少年少女の見た目の人種で、普通に生活の中で見かける。どうやら、勤勉で真面目、ちょこちょこと仕事をこなす姿は好まれ、住み込みの場合も、それほど、場所を撮らないことも利点に上げられるらしい。
「彼らはとても、仕事熱心ですよ。見た目からしてもとても可愛らしいですし」
お堅い人かと思ったが、ふわりと目を細めて、火神大我を見やった。その表情はとても優しげで、愛情にあふれているように感じられた。
「こちらが、事細かな契約書のコピーです。こちらとしては、すでに降旗さんから住み込み家政夫の以来申し込みがされていまして、とりあえず、お試しで一か月。その期間中は、彼はこちらに住まずに、本社に帰りますので、気に入った場合などは、住み込みでも、それ以降も住み込みにしない等と、検討して頂ければっと、思います」
「もう、降旗くんが契約をしているということですか?」
「そうです、黒子さんの体調が心配なので、三食きっちり美味しいごはんと、掃除洗濯などの家事をやってくれる人を、っと、聞いております。それで、今日からとのことでしたか、連絡が食い違いましたか・・・」
どうしましょうねかねっと、緑間さんは、続け、僕は「降旗くん気が早すぎます」と、彼に電話を掛けた。少しのコールの後、電話に出た降旗くんは、「えっ、もう、契約しちゃいました。お試し期間ってことで、三食きっちり食べてください。食の大事さが身に染みて、より頑張れるようになるかもしれないじゃないですか」と、彼が言う。
顔に見合わず、時々大胆な行動をする男だとは思っていたが、「また倒れたら困りますから!」と、続く言葉に、倒れたときの離乳食の味と触感が口に広がったように感じた。
「そうですよね、それでは、まずは、君の言うとおりにしてみようと思います」
そう答えていた。電話を切り、向き直ると「これからよろしく!」と、小さな手が目の前に差し出された。
「こちらこそよろしくお願いします」と、火神くんの手を握り返した。
end?
苦手な方はスルーしてください。
書きたいところだけ書いたので、火神くんほとんど出てきません。
- 僕の家政夫さん -
職業小説家。20代後半。名前は黒子テツヤ。独身。マンションに一人で暮らしているが、先日、仕事の締め切りに追われ、4日程、食事もろくに採らずに執筆作業をしていたところ倒れた。
飽食の時代に餓死でもするつもりか!っと、運ばれた先の病院にて、こっ酷く叱られた。これもまた小説のネタにしようと、思うぐらいには職業病も患っている。そのあと、倒れた僕を発見してくれた担当編集の方に、泣きながら怒られた。「申し訳ないです・・・」と、頭を下げつつ、人間はやはり、固形のものを食べないとダメなんだなっと、考えていた。だけど、食べることを忘れていた数日の間に弱った僕の胃腸は固形物を拒み、数日はドロドロのおかゆとも取れないものを流し込むにとどまった。
赤ん坊の離乳食みたいな、味の薄い、米粒の形が溶けたような食べ物に、食にあまり関心のない僕も流石に懲りた。それと、入院中の部屋であまり執筆作業がはかどらなかったのも、僕に堪えた。大学生時代から好きが高じてデビューをし、家族以外には何の仕事をやっているかも伝えずに、ここまでやってきた。
初めは学生のアルバイトにでもなれば良いと気軽な思いつきだったように思う。本が読むのが好きで、ある日、思い浮かんだミステリー小説を書いた。処女作にしては、なかなかのページ数になった。読みたいと思った謎解きがパズルのように、ハマっていく作業はとても楽しく、折角書いたのだから送ってみるのも良いかもしれないと、送った出版社から連絡が来て学生の内にデビューした。それから、学生時代から授業の合間に執筆をして、学生でありながらも本を数冊出してもらい就職活動もせず、職業小説家となった。
学生の肩書がなくなってからは、これで食べていくのかっと、不安になることもなく、書きたいものは次々と浮かび、それをノートパソコンに打ち込み暮らしている。時々やってくる担当編集の方からの差し入れや、ネットで頼んでいる食材の配達。たまに本屋やレンタルショップに行くぐらい外との交流も殆どない。
周りの友人にも職業を秘密にしているし、新刊が発売した際の雑誌の取材なども、顔を出さないことを約束して、細々と活動している。友人らは、僕が出版関係で働いていることぐらいは知っているようだ。
ギリギリ朝に起きて、食パンを一枚食べ、コーヒーを一杯飲みつつ、昨日の執筆したところを一通り見直す。それから、メールなどの連絡事項を済ませてから、まずは頭の中をフラットにするために、映画を見たり、本を読む。その後、気まぐれに執筆へ入る。時間も決められていないまま、浮かんだものを打ち続ける。食事もお腹が空いたら、空腹が紛れればよく、こだわりなく適当に食べた。
たまに行く本屋だったり、編集の方から聞く感じからして、それなりに僕の本は、ありがたいことに人気があるみたいだ。
そんな生活を続けて、数年。初めて倒れた。これは、20代後半で、老い始めたのかもしれない。昔から体力がある方ではなかったが、バスケなどをしていて、何もしてない人よりは丈夫に過ごせていたのかもしれない。普段の執筆や、食生活、運動不足から、衰え、衰退していくのかもしれない。それに、また倒れて、小説が書けなくなったらと思ったら恐ろしくなったりもした。
僕はあまり考えていることを表情に出さない人間だが、長年の付き合いでソレを読み取った担当さんが「結婚なんてしてみてはどうですか?」と、言った。
外との繋がりはほぼない、確かにこの頃、周りの友人たちがポロポロと結婚し始めた。家族だけで式を上げました、だとか、入籍して子供が出来ましたっとハガキが届いたり。仲の良い友人の式に出席して、「あぁ、あいつも結婚したんだなぁ」と、思うぐらいが僕の結婚の興味の無さが計り知れた。
完全に、自分が結婚をするような人間だとは到底思っていなかった。考えたこともなかった。最近はめっきり連絡もしていないが実家に顔を出せば両親は「結婚は?」と、聞いてくることもあったが、スルリとかわしてきていた。
担当さんの言葉で、そうか結婚かっと、動き出せるような人間でもない。困った顔が珍しく出ていたのか、担当さんが、「あっ、別にセクハラ発言じゃないですよ!?」と、慌てた。
「結婚なんて、僕にできますかね。それに、出会いもないし、今悩んでいるのは、僕の食生活の見直しと言いますか・・・」
歯切れの悪い言葉を、差し入れのゼリーを口にして誤魔化す。向かいに座っている担当の降旗くんは、僕と同い年の彼も同じようにムグムグとゼリーを口にした。たまにこうやってやってきては、何か土産を持ってきてくれる。今日はまだまだ暑い日の続く今にぴったりの涼しげなゼリー。
倒れたときも何かを持ってきてくれていたが、それは何か知らない。優しそうで、少し困った顔の彼が、急に何かひらめいたのか、「あっ」と、声を上げた。
「それなら、家政婦なんてどうですか?」
「僕の知り合いに、家政婦を派遣している人が居まして、この頃結構人気らしいです。確か、先生家事も苦手でしたよね?」
前に珍しく出版社のパーティーに参加せざるおえなくなり、久しぶりにスーツを取り出したはいいが、Yシャツのアイロンの掛け方がわからず、彼に連絡したのを覚えていた。あの時は、適当にネットで調べればよかったと後になって思ったが、今もこうやって覚えられているとは。
食事も、一人暮らしが長いものの、料理の腕前は全くだ。口に入ればいい程度の考えだった。よくもまぁ、今まで倒れなかったものだ。掃除洗濯も、たまったらやるぐらい。顔を見に来た降旗くんが見かねて洗濯をまわしてくれることも、実はある。生活力が無いんだなっと、確かに家事は苦手・・・というか、億劫である。生きれる最低ラインで、極力燃費良く。
「また倒れられても、困りますし、長く作家活動してもらえると、こちらとしても嬉しいし、先生としても、友人としても、健康は願っています。それに、入院されて、食の大事さが身に染みたんですよね?」
そう言って、振り返った先のキッチンには、昼に食べたインスタント食品のカップが洗ってひっくり返してある。健康は食生活から。できたら適度な運動もっと、言われた。
「とりあえず、話だけでもどうですか?住み込みもあるみたいですよ」
倒れてから多少弱った思考回路だったのか、彼の勧められるままに、「じゃぁ、まずは、話だけでも」と、家政婦の申し出を受け入れた。すぐに行動を起こした彼が、目の前で家政婦を派遣している友人のところへ電話を掛けた。2・3質問されているのか答えると「二日後って、予定大丈夫ですか?」と、話口を口から少し話して問われたので、「いつでも」と、答えた。
話はトントンと纏まり、そして、僕は約束した二日後が来るまでの間も、結局は変わらない日常を送った。朝起きて、食パンから始まり、パソコンへ向かい、お腹が空いたら適当な食事。
あの時は、たまたま締め切りに追われ数日物を食べなかったから倒れただけなんじゃないのか。家政婦なんて雇わなくとも、今後もこのまま生活していけるんじゃないかと思ったころに、彼はやってきた。
数時間前、降旗くんから「伺う予定でしたが、仕事で行けなくなりました」と、詫びの連絡が入っていた。どうやら、僕のところに来る前に、違う作家さんのところへ現行の進捗状況を伺いに行ったら作家は泣きながら白紙のページ数を口にしたらしい。
「数日前から、連絡取っても、微妙にモゴモゴとして、何か隠してると思ったんですが、締切目前で、こんなことに。今日は付きっ切りで××先生のケアを任されてしまったので、本当にすみません」
たぶん、電話越しでも、ペコペコと頭を下げているんだろうと、彼の姿を思い浮かべて、「大丈夫ですよ、ありがとうございます」と、返した。それから、多少労いの言葉をかけて、また連絡すると伝えた。ついでに、僕の小説の進捗状況も伝え、メールを入れておくと仕事のことも忘れずに。
約束の時間になり、ピンポーンっと、インターフォンが鳴った。「はいはい」と、思わず口にしながら、インターフォン前の映像が映された画面を覗いた。そこには、何も映っていなかった。おや?っと、思いつつも、僕は玄関へ向かい、「どちら様ですか?」と、チェーンロックはかけたまま、ソッと扉を開いた。カチョンッと扉が鳴り開いた先。少々目線の下に、赤色の髪の少年が立っていた。
「初めまして、火神大我だ!今日から、お前の家政夫しに来た!」
そういって、首元に下げた社員名と、派遣先の証明カードのようなものを掲げ、僕に見えるようにした彼はピカピカの笑顔でコチラを見上げてきた。もう片方の手には掃除用具。背中には大きなリュックを背負い、「なぁ、荷物が重くて転がっちゃいそうだから、まず、入っていいか?」と、伺ってくる。僕は僕で、突然の少年の登場に驚いて、不用心にも、扉を開けてしまっていた。
一度締めて、チェーンロックを外し、開けた先に、もしかしたら、全く別の人物。たとえば強盗などが立っていたかもしれないが、そんなことはなく、やはり少年が、「ありがとう!」と、「お邪魔します!」と口にして入ってきた。
少年は靴を脱ぎ、行儀よく外へ向けて靴をそろえた。ついでに僕の靴も揃え、満足そうに「キレイになったな!」と、僕を見上げた。
「あの・・・君は、えっと・・・」
「火神大我だ!よろしくな。今日からお前の家政夫だ。緑間から、言われてきた!」
「僕はまだ、説明を聞くだけの予定だったんだけど、契約の事とかわかる大人の人はいないのかな?」
腰をかがめ、彼の顔を見ると、「あっ、そうだった!悪い悪い。ちょっと、ベランダから呼ぶな」と、彼は、真っ直ぐに突き当たりのベランダへと向かい、カーテンと窓を開け、手すりから下を覗き込んだ。後を追う、僕も、彼の見下ろした先を覗き込んだ。
マンションの下の道路脇に停めた車に寄り掛かるようにして、緑色の髪のスーツの男性がこちらを見上げていた。
「緑間ぁ~!契約の説明、してやんなきゃだよ!早く来て!」と、呼びかけられた男性が、メガネをクイッと掛けなおす仕草をし、小さく手を上げたのを見た。車の窓をノックして、中の人に何か話している。中から手渡された書類を手にし、緑間と呼ばれた男性が、「今行く」とでも言うように、上を指差した。
今度は、先ほどの男性がやってきて、丁寧な挨拶と、名刺を手渡された。前もって降旗くんから社名は聞いていたので、部屋に通し、冷えたお茶を出した。
「おかまいなく」と、丁寧な説明で、家政婦派遣について説明をしてくれた。横に一緒に腰掛ける少年が、楽しそうに、相槌や注釈を入れる。「俺、料理得意だよ!」と、元気な声に、そうかそうかと、微笑ましく表情が緩む。
話を聞いたところ、この会社の家政婦派遣は、小人族の人間を家政婦登録し派遣しているらしい。小人族は、成人しても少年少女の見た目の人種で、普通に生活の中で見かける。どうやら、勤勉で真面目、ちょこちょこと仕事をこなす姿は好まれ、住み込みの場合も、それほど、場所を撮らないことも利点に上げられるらしい。
「彼らはとても、仕事熱心ですよ。見た目からしてもとても可愛らしいですし」
お堅い人かと思ったが、ふわりと目を細めて、火神大我を見やった。その表情はとても優しげで、愛情にあふれているように感じられた。
「こちらが、事細かな契約書のコピーです。こちらとしては、すでに降旗さんから住み込み家政夫の以来申し込みがされていまして、とりあえず、お試しで一か月。その期間中は、彼はこちらに住まずに、本社に帰りますので、気に入った場合などは、住み込みでも、それ以降も住み込みにしない等と、検討して頂ければっと、思います」
「もう、降旗くんが契約をしているということですか?」
「そうです、黒子さんの体調が心配なので、三食きっちり美味しいごはんと、掃除洗濯などの家事をやってくれる人を、っと、聞いております。それで、今日からとのことでしたか、連絡が食い違いましたか・・・」
どうしましょうねかねっと、緑間さんは、続け、僕は「降旗くん気が早すぎます」と、彼に電話を掛けた。少しのコールの後、電話に出た降旗くんは、「えっ、もう、契約しちゃいました。お試し期間ってことで、三食きっちり食べてください。食の大事さが身に染みて、より頑張れるようになるかもしれないじゃないですか」と、彼が言う。
顔に見合わず、時々大胆な行動をする男だとは思っていたが、「また倒れたら困りますから!」と、続く言葉に、倒れたときの離乳食の味と触感が口に広がったように感じた。
「そうですよね、それでは、まずは、君の言うとおりにしてみようと思います」
そう答えていた。電話を切り、向き直ると「これからよろしく!」と、小さな手が目の前に差し出された。
「こちらこそよろしくお願いします」と、火神くんの手を握り返した。
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