黒火「苦しくて悲しい」
黒火。
王道の風邪ひき火神くん。
あまりカプ色、強くありません。
- 苦しくて悲しい -
「頭が痛いかもしんねぇ・・・」
朝練の着替え中に、ポツリとこぼれた言葉。誰に言うでもなく、落ちてしまったソレ。「え?」っと、聞き返した僕を見て、逆に少し驚いた表情をした彼は、言葉を零してしまったことに気付いてなかったのかもしれない。
始まりはそれぐらいのことだった。
バスケ以外のことになると口数の少ない彼は、教室では殆どだんまり。それが普通。話しかけられれば答えるけど、自分から率先して話しかける方でもない。僕は彼が日本語をあまり器用に扱えないせいだと思っていたけど、別の理由があるのかもしれない。
朝練を終わらせ、お腹が空いたのか、モソモソと家から持ってきたおにぎりを食べている火神くんを後ろから見ていた。担任が教室に来る五分前。
ザワザワと、騒がしい教室。今日はいまいち読書に集中できなくて、ぼんやりと彼をなんとなしに見ていた。どことなく、元気がないのかもしれない。今朝聞いた「頭が痛い」は、本当なんだろうか?
顔色は悪くない。朝練中、しっかりと動けていた。早朝走り込みにも行ったらしい。朝からそんなにも運動して、よくもまぁ、体力が一日続くものだ。熱っぽくもなさそうだし、眠そうなのは、朝から走ったりしたからだろうか。そもそも、授業が始まれば、こっくりこくりと、舟をこいでいつの間にか眠ってしまうんだから、いつも眠そうと言えば、眠そう。
朝、耳にした声も、変わらず通る声をしていた。頭が痛いだけで、風邪、では、ないのかな。
火神くんっと、声を掛けようとしたタイミングで、担任が教室に入ってきた。それぞれの席に着いたところで「おはようございます」から、一日が始まった。
授業中はやはり舟をこいで眠りこけた彼は、先生に、時々起こされたり、「静かならいいや」と放置されたり。先生によって対応は様々。起こされたとしても、又すぐに眠ってしまうんだから、起きている時間は少ない。
起こしていた先生も、最後は呆れて寝かせたままにしていた。午前中の授業をただひたすらに眠った彼。いつもは、寝ていたとしても昼休みの時間には「お昼・・・」っと、起きてくるのに、今日に限って、昼休みに入って10分もたっても寝ていたので、僕が起こしてあげた。
「火神くん、もう、お昼休みですよ。お腹は?減ったんじゃないですか?」
大きな背中を揺り動かしてやると、のそりと、冬眠から覚めた熊みたいに、実にゆっくりとした動作でコチラに振り返り、「くろこぉ?」と、頭も下もまわってないボヤけた声が聞こえる。
「調子悪いんですか?」
「・・・・・・調子、悪いんかな?」
コチラが聞いているのに、逆に聞かれても・・・っと思うも、食欲がない段階でおかしい。僕はウルサイ教室から彼を連れ出し、保健室へ手を引いた。文句も言わず、手を引かれるままに、ノロノロとついてくる。
保健室に入り、保険医さんに簡単に説明をして、体温計を借りる。保険医さんは利用名簿に名前と学年を記入し、簡単に彼の調子を確認する。ピピピッと、体温計が鳴るよりも早く「こりゃ、風邪だね」の言葉。ピピッと音を上げた体温は平熱よりは少し高い。でも彼は、元から体温が高い。
一緒に覗き込んだ体温計。彼の顔を覗き込むと、ボンヤリとしている。
「どうする?帰りたい」
と、保険医さんに聞かれる。「迷惑かけたくない」と、すぐに帰ることを決めた彼。
「親御さんは?」
「俺、一人暮らしで誰も・・・」
「じゃぁ、担任の先生に乗せていってもらう?さすがに、体調不良の生徒を一人返すのも・・・」
「いや、普通に帰ります。大丈夫です」
どう大丈夫なのかもわからないけど、いやでも・・・っと、食い下がる保険医さんとの会話で所々、迷惑かけたくないと、彼は零した。
「部活終わったら火神くんの家に行きますから」
帰って行った彼の事を思う。迷惑なんて、掛ければいいのに。
午後の授業を乗り切り、部室でみんなに、今日は火神くんは風邪のため欠席ですと、伝える。朝元気そうだったのになっと、少し話して、部活後に彼の家に行くことを伝えると、カンパ金っと、少しずつ小銭をもらった。
彼の家に向かう途中のコンビニで、レトルトのおかゆと、ヨーグルトとみかんの缶詰、それからスポーツドリンクを買った。手にずっしりと重たいのは、皆から愛されている重みなのかもしれない。
学生の小遣いなんて少ないけど、皆心配しているんだ。彼は大事な大事な僕らの仲間。何度か来た手順で家にやって来た。部活が終わったら行くからと、鍵を拝借していたので、スルリと入れた。わざわざ寝ているかもしれない彼を起こしてまで出迎えてもらう理由が無い。
彼のプライベートかもしれないけど、コレからも何か有ったとき用に合鍵が欲しいなっと思った。シンと静まり返った部屋の中に入る。少し籠った空気に、暗い部屋へ。
まずは勝手に、買って来たものを冷蔵庫に入れる。僕がゴソゴソとしていても彼が出てこないのは、やはり寝ているからなのかもしれない。
冷蔵庫から、冷えていたペットボトルを一本取り出し、ずっと寝ていたとしたら一度水分を取らせないとっと、寝室に向かった。ゆっくりと静かに上げた部屋にふとんを深くかぶって寝ている彼が見える。カーテンの隙間から漏れた光が緩く部屋を照らしている。
「火神くん?お邪魔してます」
一応声をかけ、ふとんをよけて顔を覗き込む。額に汗で張り付いた前髪をソッと払ってやる。少し速い呼吸の彼がボンヤリと目を開け、密かに口を動かした。声は聞こえなかった。擦れた空気が零れるのが小さく聞こえただけだった。
「喉をやられちゃったんですか?」
僕の問いかけに答えることも無く、撫でられたのが気持ちよかったのか、目を細めた。まだ覚醒しきってないのか、珍しく甘えた素振りを見せる彼。苦しんでいるのに、可愛いなっと思ってしまって、少し申し訳なくなった。
「起きれますか?水持ってきましたけど?」
身体が起こせないのであればストローでも用意してやらないと・・・。反応のない彼の頬に触ると、頬を押し付けるように顔を傾けた。僕の手がペットボトルで冷たかったからかな?
「食事は?クスリは・・・? とりあえず、ストローを探してきますね」
腰を上げた僕の服を掴む手。元を辿らなくても、ココにいるのは彼しかいない。彼が、まだボンヤリとした表情で僕を見上げて、口を動かすので、屈み込んで用件を聞こうと耳を近づけると、「行かないで・・・」と、小さな声で言い。お父さんっとも、続けた。
「大丈夫ですよ。一緒に居ます」
急に苦しくて悲しくなって、安心させたくて、また紙を撫でた。ふとんの隙間から出た手を、ふとんの中に戻してやり、中で手を握ってやった。
「忙しいのにごめんね、迷惑・・・」
彼が、目を閉じたまま、口にする謝罪の言葉。僕はただ、「大丈夫」と、声をかけてやるしか出来なくて、彼がまた寝息を立てるまで、苦しい気持ちのまま一緒に居た。
「忙しいのにごめんね、か・・・火神くんはもっと周りを頼れば良いのに、だけど・・・」
僕は彼の父親の代わりにはなれないんだろうなと、また少し悲しくなった。頭を撫でて、寝息を立てる彼の瞼に小さくキスを落とす。彼の力になりたいなぁっと、思った。
もどかしい気持ちを抱えて、家に電話をする。彼が目を覚ました時にせめて一緒に居てあげたい。
end.
王道の風邪ひき火神くん。
あまりカプ色、強くありません。
- 苦しくて悲しい -
「頭が痛いかもしんねぇ・・・」
朝練の着替え中に、ポツリとこぼれた言葉。誰に言うでもなく、落ちてしまったソレ。「え?」っと、聞き返した僕を見て、逆に少し驚いた表情をした彼は、言葉を零してしまったことに気付いてなかったのかもしれない。
始まりはそれぐらいのことだった。
バスケ以外のことになると口数の少ない彼は、教室では殆どだんまり。それが普通。話しかけられれば答えるけど、自分から率先して話しかける方でもない。僕は彼が日本語をあまり器用に扱えないせいだと思っていたけど、別の理由があるのかもしれない。
朝練を終わらせ、お腹が空いたのか、モソモソと家から持ってきたおにぎりを食べている火神くんを後ろから見ていた。担任が教室に来る五分前。
ザワザワと、騒がしい教室。今日はいまいち読書に集中できなくて、ぼんやりと彼をなんとなしに見ていた。どことなく、元気がないのかもしれない。今朝聞いた「頭が痛い」は、本当なんだろうか?
顔色は悪くない。朝練中、しっかりと動けていた。早朝走り込みにも行ったらしい。朝からそんなにも運動して、よくもまぁ、体力が一日続くものだ。熱っぽくもなさそうだし、眠そうなのは、朝から走ったりしたからだろうか。そもそも、授業が始まれば、こっくりこくりと、舟をこいでいつの間にか眠ってしまうんだから、いつも眠そうと言えば、眠そう。
朝、耳にした声も、変わらず通る声をしていた。頭が痛いだけで、風邪、では、ないのかな。
火神くんっと、声を掛けようとしたタイミングで、担任が教室に入ってきた。それぞれの席に着いたところで「おはようございます」から、一日が始まった。
授業中はやはり舟をこいで眠りこけた彼は、先生に、時々起こされたり、「静かならいいや」と放置されたり。先生によって対応は様々。起こされたとしても、又すぐに眠ってしまうんだから、起きている時間は少ない。
起こしていた先生も、最後は呆れて寝かせたままにしていた。午前中の授業をただひたすらに眠った彼。いつもは、寝ていたとしても昼休みの時間には「お昼・・・」っと、起きてくるのに、今日に限って、昼休みに入って10分もたっても寝ていたので、僕が起こしてあげた。
「火神くん、もう、お昼休みですよ。お腹は?減ったんじゃないですか?」
大きな背中を揺り動かしてやると、のそりと、冬眠から覚めた熊みたいに、実にゆっくりとした動作でコチラに振り返り、「くろこぉ?」と、頭も下もまわってないボヤけた声が聞こえる。
「調子悪いんですか?」
「・・・・・・調子、悪いんかな?」
コチラが聞いているのに、逆に聞かれても・・・っと思うも、食欲がない段階でおかしい。僕はウルサイ教室から彼を連れ出し、保健室へ手を引いた。文句も言わず、手を引かれるままに、ノロノロとついてくる。
保健室に入り、保険医さんに簡単に説明をして、体温計を借りる。保険医さんは利用名簿に名前と学年を記入し、簡単に彼の調子を確認する。ピピピッと、体温計が鳴るよりも早く「こりゃ、風邪だね」の言葉。ピピッと音を上げた体温は平熱よりは少し高い。でも彼は、元から体温が高い。
一緒に覗き込んだ体温計。彼の顔を覗き込むと、ボンヤリとしている。
「どうする?帰りたい」
と、保険医さんに聞かれる。「迷惑かけたくない」と、すぐに帰ることを決めた彼。
「親御さんは?」
「俺、一人暮らしで誰も・・・」
「じゃぁ、担任の先生に乗せていってもらう?さすがに、体調不良の生徒を一人返すのも・・・」
「いや、普通に帰ります。大丈夫です」
どう大丈夫なのかもわからないけど、いやでも・・・っと、食い下がる保険医さんとの会話で所々、迷惑かけたくないと、彼は零した。
「部活終わったら火神くんの家に行きますから」
帰って行った彼の事を思う。迷惑なんて、掛ければいいのに。
午後の授業を乗り切り、部室でみんなに、今日は火神くんは風邪のため欠席ですと、伝える。朝元気そうだったのになっと、少し話して、部活後に彼の家に行くことを伝えると、カンパ金っと、少しずつ小銭をもらった。
彼の家に向かう途中のコンビニで、レトルトのおかゆと、ヨーグルトとみかんの缶詰、それからスポーツドリンクを買った。手にずっしりと重たいのは、皆から愛されている重みなのかもしれない。
学生の小遣いなんて少ないけど、皆心配しているんだ。彼は大事な大事な僕らの仲間。何度か来た手順で家にやって来た。部活が終わったら行くからと、鍵を拝借していたので、スルリと入れた。わざわざ寝ているかもしれない彼を起こしてまで出迎えてもらう理由が無い。
彼のプライベートかもしれないけど、コレからも何か有ったとき用に合鍵が欲しいなっと思った。シンと静まり返った部屋の中に入る。少し籠った空気に、暗い部屋へ。
まずは勝手に、買って来たものを冷蔵庫に入れる。僕がゴソゴソとしていても彼が出てこないのは、やはり寝ているからなのかもしれない。
冷蔵庫から、冷えていたペットボトルを一本取り出し、ずっと寝ていたとしたら一度水分を取らせないとっと、寝室に向かった。ゆっくりと静かに上げた部屋にふとんを深くかぶって寝ている彼が見える。カーテンの隙間から漏れた光が緩く部屋を照らしている。
「火神くん?お邪魔してます」
一応声をかけ、ふとんをよけて顔を覗き込む。額に汗で張り付いた前髪をソッと払ってやる。少し速い呼吸の彼がボンヤリと目を開け、密かに口を動かした。声は聞こえなかった。擦れた空気が零れるのが小さく聞こえただけだった。
「喉をやられちゃったんですか?」
僕の問いかけに答えることも無く、撫でられたのが気持ちよかったのか、目を細めた。まだ覚醒しきってないのか、珍しく甘えた素振りを見せる彼。苦しんでいるのに、可愛いなっと思ってしまって、少し申し訳なくなった。
「起きれますか?水持ってきましたけど?」
身体が起こせないのであればストローでも用意してやらないと・・・。反応のない彼の頬に触ると、頬を押し付けるように顔を傾けた。僕の手がペットボトルで冷たかったからかな?
「食事は?クスリは・・・? とりあえず、ストローを探してきますね」
腰を上げた僕の服を掴む手。元を辿らなくても、ココにいるのは彼しかいない。彼が、まだボンヤリとした表情で僕を見上げて、口を動かすので、屈み込んで用件を聞こうと耳を近づけると、「行かないで・・・」と、小さな声で言い。お父さんっとも、続けた。
「大丈夫ですよ。一緒に居ます」
急に苦しくて悲しくなって、安心させたくて、また紙を撫でた。ふとんの隙間から出た手を、ふとんの中に戻してやり、中で手を握ってやった。
「忙しいのにごめんね、迷惑・・・」
彼が、目を閉じたまま、口にする謝罪の言葉。僕はただ、「大丈夫」と、声をかけてやるしか出来なくて、彼がまた寝息を立てるまで、苦しい気持ちのまま一緒に居た。
「忙しいのにごめんね、か・・・火神くんはもっと周りを頼れば良いのに、だけど・・・」
僕は彼の父親の代わりにはなれないんだろうなと、また少し悲しくなった。頭を撫でて、寝息を立てる彼の瞼に小さくキスを落とす。彼の力になりたいなぁっと、思った。
もどかしい気持ちを抱えて、家に電話をする。彼が目を覚ました時にせめて一緒に居てあげたい。
end.
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