哲御/どこまでもついていきます
哲御、難しいですね。
なんか、よくわからない話。一緒にお買いもの。
いたしてはいませんが、下品な作品です・・・;;
ー どこまでもついていきます ー
哲さんに、ついてきて欲しいところがあると頼まれた。普段口数が少なく、お願い事は殆どない彼がいったいどこに行きたいのか興味があった。
俺が高校を卒業する頃に突然呼び出されて告白されてからの付き合いだ。お互いに野球付けの日々を過ごしていたから、恋人らしいこともわからない。大学に進学した後も二人とも変わらず野球を中心にした生活をしているからなのか。単純にそういったことに無知の二人がそろったからだろうか。
進展は遅々として、一向に進まない。俺と哲さんの関係を知る人もいないから相談するような相手はいない。
もしやこれは、彼なりのサプライズか何か?とフッと思った。ないない。相手がそんな気を使うように器用な性格でないことは付き合う前からの真っ直ぐな姿勢で知っている。
大学もバラバラでバイトに部活に忙しい俺たちが久しぶりに予定を合わせて、午前中に映画を見て、少し遅いお昼ご飯を食べているときに言われた。いつものデート。代わり映えはせず、デートと言っていいのかわからない。友達同士と行ってしまえば、そうなってしまいそうな。
そんな関係を一年と少し。恋人って、もっと、こう・・・と、伝えたくても俺にも恋人とはなんたるかを知らない。恋人だからと気張ることのないこの関係はとても心地よい。
「あぁ、はい、どこへでもお供しますよ」
この後の予定は全く決めていなかった。ダラダラと買い物にでも行って時間を潰して、夕食を食べて、さよならと、それぞれの家に帰るぐらいだろうと考えていた。ただ何気なく休日を消化するよりは、目的の場所があった方がいい。断る理由もない。
「そうか、それはありがたい」と、珍しく硬い表情を緩ませて笑った。俺相手に何をそんなに気を張っていたんだろう?と、疑問が浮かんだが、そのタイミングで頼んでいたメニューが運ばれてきた。
ウエイトレスの女の子がそれぞれの目の前にパスタとサラダ、そしてスープを運んできた。
「これだけの量で足りるか?」
「大丈夫ですよ」っと、そういって笑っていた自分を今すぐ戻って、ぶん殴ってやりたい。
遅めのランチを食べ終え、二人で目的の場所へ向かう。道はもう調べてあったようで、慣れない道にキョロキョロとする俺を引っ張るように手を捕まれて歩いた。
どんどん、ショッピング街から外れていく。いったいどこへ向かっているんだろう。手を捕まれているけど、手首のあたりを捕まれているので、まったくそれっぽくない。それに、歩くほどに人通りも減っていく。
「哲さん、本当に、この道でいいんですか?」
なんだか不安になってきた。どこへつれて行かれるのだろう。そろそろ、20分ほど歩いているはずだ。
「大丈夫だ、一度、店の前まで行ってみたことがある」
「へぇ、それなら安心ですね」
「もうすぐだ。俺も友人に連れていってもらったときは、なかなか、たどり着けなくて不安に思ったよ」
「そうですか、一緒ですね」
店と言うことは、何かを買うと言うことだろうか。彼は何が欲しいんだろう。早く知りたいな、楽しみだなっと思いながら、さっき見た映画の感想を話したりした。横を走る車がグゥーンッと音を鳴らした。
程なく歩いていくと、ピカピカと派手なぐらいに演出したいかがわしい店が見えた。自分は同じぐらいの年の奴らに比べると淡泊というか、そういった事に対して無知だけど、きれいな顔をした女性が「夜のお相手は決まった?」の文字を添えて旗になって揺れていた。
アダルトビデオの類は持っていない自分からしたら、へぇ、こう言うところで買うんだっと、思った。レンタル屋で仕切られた空間とネットで買う以外でも専門店ってのは、こんなにも街から外れたところにあるんだなっと。
そう思っていたら、サラリーマン風のスーツを着た男性が店から出てきた。なんだか急に恥ずかしくなって、無意識に下を向いき、そっと、哲さんの後ろに隠れた。
「哲さん」と、名前を呼んだタイミングで、彼が急に立ち止まった。止まった先は、先ほどの店の少し手前。
「えっ!えっ、ま、まさかココですか!?」
「そうだ」
欲しいものって、アダルトビデオだったのか!!
彼も自分同様、淡泊だろうと思っていたけど、男だから欲しいんだ!!でも、恋人と一緒にオカズの物色って、すごく複雑・・・。
何と言っていいのかわからない俺を引っ張るように、「行こう」と、グイグイと歩みを進めた先は、店の横のビルの階段だった。よかった、違ったんだっと、ホッとするよりも早く過激なディスプレイが目に飛び込んできた。
階段の踊り場には、階上案内と、いかがわしいポスター、ガラスケースの中には卑猥な形の大人の玩具。
「わっ!!!」
身体を竦まして、階段の手すりにすがりついた俺を哲さんが振り返る。
「どうした」
「どどど、どうしたって、ココ!」
「アダルト、ショップだな」
真面目腐った態度で、淡々と言われた言葉に殴られた錯覚に陥る。クラクラとした状態で、良いとも悪いとも反応できず、引っ張られるままに二階のアダルトショップに足を踏み入れた。
俺は、見慣れないイヤラシイ商品にめまいを覚え、キョドキョドと落ち着かない身体を精一杯縮こめて哲さんの手にすがるように、ひっついて、歩いた。
もう、男同士でこんな店に入ってきた段階で、正気を忘れていた。いつもだったら照れもあって距離をとって歩くけど、そんな余裕は今の俺には全くない。
先に入店していた男性の視線が痛い。レジカウンターに立つ男性の微笑みが恐ろしい。男性の性器を象ったグロテスクなものや、小さい卵みたいなものが並んでいる。色は、ピンクや黄色とかわいらしい色合いなのに、恥ずかしさからか、それらは暴力にしか見えなかった。
目をあわさないように、アダルトグッズをみないように下に目を向けると、女性の女裸のポスターが床に貼ってあった。挑発的な顔をして、辛うじて局部は両手で隠しているが、思わぬ登場に半泣き状態で、哲さんの名前を呼んだ。
「哲さぁ~ん」
一刻も早くココから立ち去りたい。
「御幸、俺は普通の男だ」
「な、なんですか、突然。知ってますよ」
「だから、お前とも、そういったこともしたい」
「だ、だからって、はじめから玩具とか、ハードル高すぎですよっ!」
もう、半ば、泣いているのか、怒っているのかわからない声で、だけど、声を潜めて。棚に阻まれているけど、この裏には店員さんがいる。おどおどしている間に、先ほどいたお客さんは買い物を済ませて出ていったみたいだ。かわいらしい音楽と女性の声で「またお越しください」と扉が鳴った。
「むっ」と、彼が小さく反応するのと同時だった。
「最初から玩具がいいのか」
「ちがっ、そういうこと言ってません!」
「俺は、友達に初めてのセックスの時は何が必要か聞いて、ローションとゴムがあれば最悪大丈夫だと聞いたんだが。御幸がそういったものに興味があるのならば善処しよう。そっちの方は調べてこなかったから、店員さんに聞いてくるよ」
「ちっ、違いますってば!」
待ってくださいっと、俺の叫びは届くことなく、さっさと、俺が必死ですがって掴んでいた腕は消え、何事かを店員と話し始めた。置いてきぼりを食らった俺は、目の前のローションや玩具の棚に身体が熱くなって、しゃがみ込んだ。一人で逃げ出す事もできない。
すぐに、彼が店員を引き連れて戻ってきた。ぎょっとした俺は、ぐっと喉の奥に息を押し込んだような音を鳴らした。
痩せた40後半ほどの店員は、ニヤニヤとした表情で俺に視線を向ける。哲さんもこちらを見ているので、その表情は見えていないだろう。
手の中に小さな箱を持っている。クリアなパッケージで、中には半透明の青い人差し指ほどの棒。
「初めての人にはこのぐらいの小さいのからステップアップしていくのが良いですよ」と、悪魔の囁きにしか聞こえないアドバイス。そうか、と、顎に手を当てる素振りを見せる彼。もうイヤだ。
緊張と羞恥で、昼に食べたものが逆流しそうだ。
「御幸、顔色が悪いな」
「俺、玩具は要らないです・・・」
気持ちは必死なのに、声は小さくなるばかりで、相手に聞こえたのかはわからなかったが、どうやら俺の声は彼に届いたようだ。変な汗でベトベトの手を掴み、「そうだな、俺も御幸が居ればいい。だけど、痛くないようにコレとコレは買おうと思う」と、要らない宣言をして、手にゴムとローションを持って会計カウンターへ向かう。
俺はもう、顔も上げて居るのも辛く、変な汗ばかりかくのにいっこうに身体が冷えていかないままだ。最初から最後までオドオドと彼の後ろについて行った。
会計をしている時に、店員が「おまけに付けておきますね」と、何かを袋の中に忍ばせた。「ありがとうございます」と、哲さんが礼を言ったので、俺も何かお礼を言うようなものだったのか?っと、思ったのが間違えだった。
顔を上げた時に、「安物ですが、ココのスイッチを入れると動きますから」と、ニヤリとイヤラシイ笑顔を浮かべた店員の顔と、カウンター上で小刻みにガタガタと揺れる小さなローター・・・・。
ヒッと、ノドからひきつった声が聞こえた気がする。あんな自分の声は初めて聞いた。
俺は支払いを済ませた哲さんをひっつかんで逃げるように店を後にした。足は早歩きから、走りに変わり、バタバタと来た道を半分ほど戻ったところで立ち止まって、しゃがみ込んだ。本当ならば、その場に縮こまってしまいたい。うずくまり、消えてしまいたい程だ。
「御幸?」
体調でも悪いのか?と、聞いてくる声が憎い。すごくすごく腹が立つのに、心配そうに背中をなでられれば、許してしまえる。「怖かった・・・」と、正直に言うと、「脅かして悪かった」
そういって、手を引かれて立たされた。「どこか座れるところに行こう」と、緊張から解放されてフラツく俺を支えながら近くのファミレスに入った。
いらっしゃいませと、明るく迎えられた店内は、すいていて、すんなりと席を通された。俺はとにかく、喉がカラカラでドリンクバーを。彼も同じくドリンクを頼んだ。
一覧表から、コーラと、オレンジジュースをお願いして、ウエイトレスが振り向いた瞬間に、「御幸は、俺としたくないわけではないんだよな?」と、爆弾をぶっ込まれた。
最初に出された水を飲んでいた俺は、「ぶはっ」と、吐き出しかけて、ギリギリで留まった。コレがもし頼んだコーラを飲んでいたときだったら大惨事だ。お手拭きで口元と濡れた手を拭いていると、頼んだジュースが運ばれてきた。
どうもっと、2人して頭を下げて、気持ちを落ち着かせようと一口飲んだ。
「で、どうなんだ?」と、逃げる事を許されない真っ直ぐな目に見つめられて、小さい声で、「したいとかしたくないと言うか、そういうんじゃなくて・・・」
「なんだ?お前がしたくないのであれば、俺は踏み込まないし、隙を見せたら攻撃するのみ」
「・・・・こ、攻撃って」
この人らしい言葉だけど、俺は今やっと、慣れない店から逃げてこられた安心で頭が回っていない。
「いきなりは怖いだろうから、ゆっくりでどうだ?」
「・・・そうですね、少しずつなら・・・」
「そうか、よかった。安心したよ。コレで、さっき買った物が無駄にならなくてすんだ」
「はぁ、そ、それより、どうしてあんな店に・・・?」
「友人が、俺が恋人が居るのに手を出していないと知って、教えてくれたんだ。とても初な恋人だと言ったら、一緒に道具を選べば喜ぶと聞いたんだが」
どんな友達だよ!っと、つっこみの言葉を飲み込んで「そうですか」と、ギリギリ笑った。「あーゆーのぐらいなら、たぶん、薬局とかで買えると思います・・・」
「そうなのか?」
絶対に、からかわれたんだ。彼は真面目だから、そのまんま受け取ってしまって、俺は被害者だ。はぁぁ・・・っと、大きなため息を吐いて、コーラを一気飲みした。しゅわしゅわとした爽やかなジュースが喉を過ぎていく。
「じゃぁ、ちょっとずつ練習しよう」の言葉に俺は盛大にむせた。店員が慌てて飛んでくるぐらいには・・・。
end.
カウンター
カテゴリー
プロフィール
(☆→@に変更)