box。

- 冷えた手 -


御幸の部屋を真っ暗にして、心霊番組を見てる。メンバーは怖さを誤摩化す為にキャンキャン騒ぐ純、一緒になって倉持が「ありえねぇ〜」なんて、笑ってる。割と現実主義な春市はフィクションとして静かに楽しんでる。そして、俺にくっ付いて震えてる御幸。
「御幸、くっ付かないでくれる？」
「へぁっ」
間抜けな声を上げて、ビクリと肩を揺らした彼は、「あー、いやぁ〜」と、言葉では言い訳を探すようにしながらも、しっかりと俺の腕を掴んだままだ。触れる手が冷たい。恐怖と緊張で冷たくなってるんだろう。
後ろから覗き込むようにして倉持が囃し立てる。
「おい、ビビってるのかよ、だっせぇ」
「ダサくない！」
倉持への返答は素早いのに行動が追いついていかない。そのタイミングでテレビの画面に心霊動画がスローモーションで映し出された。恨めしそうにこちらを見ているとナレーターの声が聞こえる。見たくないくせに画面を不安げに瞳を揺らしながら見てる。
折角楽しんでるのに外野が五月蝿い。
「でけぇ図体のくせに」
純がいつもの自信気な御幸が怖がってるのが面白いのか、笑う。
「ず、図体は関係ありませんよ」と、春市が微妙にフォローする。ひゃはっと、倉持も笑う。
怖くないと主張するくせに俺にギュウギュウくっ付いてくる、煩わしくって、払いのけようとすると、「亮さぁ〜ん、怖いぃ〜」と、余計に引っ付いてくる。
テレビを見るよりも、周りに気を反らし始めたのか、余裕が出てきたようで、俺以外の奴らとギャーギャー盛り上がる。
「そう言う純さんこそ、怖いから騒いでるんじゃないですか！？」
「なんだと、生意気っ、」
静かな鑑賞の場が急にプロレス会場になる。縺れるように純が御幸の首に腕を回す。俺にくっ付いてる御幸が引っ張られて、俺まで引っ張られる。
加勢するように、倉持も技をかけて、慌てて止めにかかる春市。
「・・・・ウルサいよ」
何しに来たわけ？と、笑顔で怒ると、全員の顔が引きつる。謝罪を口にして元の場所へ落ち着く。静かになった部屋を白く光る画面が照らす、ナレーターの声だけが淡々と説明し、リプレイと、同じ場面を何度も見せる。
小さく縮こまった御幸が、また冷えた手で、俺の手を掴んだ。

「おっ、おわった〜」
番組の終了とともに、ふぅっと、大きく溜息をついた御幸に春市がにっこりと言葉をかける。
「お疲れ様です、御幸先輩、怖かったですね」
開放感からか、「怖かった！」と、素直に口にした御幸が、「亮さんの隣で良かった、心強い、幽霊も亮さんからは逃げる！」
「それって、どう言う事かな？」
「わっ、嘘です、純さんとか倉持の間違いです。顔が怖いから幽霊が逃げる」
「あぁ！？」
「嘘ウソ、うそですよぉ。冗談ですって！」
「純さん、俺が軽く痛めつけておくんで多めに見てやって下さい！」
ヒャハッと笑いながら決められた技はかなり深く入っていて、全く軽くない仕打ちに慌てる春市がキョロキョロと周りを見てる。バシバシと腕をタップされてやっと解放された御幸が荒い息を上げる。ソレを笑う純に倉持。
「お前、ビビり過ぎなんだよ。亮さんに縋り付いちゃって」
「御幸のせいで肩が凝ったよ。凭れてくるんだもん」
首をグッと伸ばす素振りをすると、「じゃぁ、マッサージでもしてもらえよ」と、純の提案が通った。一通りテレビの後の無駄話も戯れ合いもした事だしっと、各自部屋へ帰る中、俺だけとどまった。
扉を閉める際には、「ついでにビビリの御幸だ、眠れねぇだろうし添い寝もしてやれ」と、笑いながら出て行った。
「なんか、すみません」
痛めたりはしてませんか？と、横になるようにクッションを手渡してくる。
「怖かった？」
「分かってるくせにやめて下さいよ、充分、肝が冷えました。冬だから余計に背筋が冷たいですって」
うー寒い寒いっと、身体をわざと揺すった御幸の手を引いて、横に座らせる。「亮さん？」と、声をかけられても下を向いて顔を隠したまま、未だに冷えたままの手をギュッと握ってやる。
御幸が違った焦りを見せる。上擦った声で再度、俺の名前を口にした。
「ビビって、手が冷えてるね」
俺の熱いままの手で冷えた手を温めてやる。照れた御幸が「りょっ」と、名前を呼ぼうとして口を動かした瞬間に口を塞いだ。驚いた彼は、グッと身体が揺れて、瞳が揺れて、ハッとした顔をしてからゆっくりと目を閉じた。
チュッと音を鳴らして距離を離すと、真っ赤になって、手も温かい御幸が、視線をそらす。俺は笑いながら、そこに、追い討ちをかけてやる。

「添い寝もしてやろうか？」



end.