風綾/しわくちゃの画用紙(title)
お題「絵を描く」1つ目。
「しわくちゃの画用紙」 配布元:迷子はココにいるよ 様
学怖の風綾で、風間君が美術部のお題になります。
前に書いた「背中」「静止」の続きみたいなのになると良いです。
- しわくちゃの画用紙 -
納得の行く所まで描きたいのに、線を描いても描いても良いと思えるものが描けない。
ただ真っ直ぐな線、滑らかに曲がる線、ギコチナく折れた線、1つ1つが集まって完成に近づく。真っ直ぐでもない、曲線でもない、折れようが、点になろうが、どれも違う。何度も描いては消しての繰り返し。
文具屋で大量買いした画用紙は消しゴムに強く擦られて、部分的に捲れて貧そうなものに、チリチリと紙の繊維が痛んで余計に良いラインが描けない。
今まで幾度も彼を描いていたのに。
目の前には、椅子に座ってトランペットを練習している綾小路がいる。場所は教室。
モデルになってと言うお願いをやっと聞き入れてくれてから、二度、彼をモデルにして描いた。
彼の部活の関係もあり、開いている放課後を狙って、描いた。三年生は時間がない。部活動の総まとめとなる大会が終わったからと言って、すぐに、受験、最後の体育祭、文化祭、イベントはギュウギュウ詰め。
僕も彼もそれなりに楽しんだけど、絵を描くチャンスはなかなか取れなかった。進学先も決まった、最後のテストも終わった。あとは、卒業を待つばかり。授業も進める所がなくて、半日か卒業式の練習ぐらい。沢山の人数を抱えてるこの高校は、代表者が数人動くぐらいで、大半は椅子に座って、退屈な時間を過ごす。
受験も終わって勉強から解放された学生達が夜更かしして、昼間は退屈と眠気と戦う。そんな日々の中の三度目。
教室には、僕と綾小路しか居ない。
初めて彼をモデルとして目の前にした時、僕は舞い上がった。今までは想像や記憶でしか描いた事なかった彼の背中を、今度は実物を前にして描けるなんて。頭の中で反芻する背中でなく、今目の前で呼吸をして密かに動く背中。
身体に一本芯が通ったみたいに真っ直ぐに伸ばされた背中、首、頭が連なる。
一度目は、納得行くか行かないかではなく、少々熱に浮かされたように、紙に一心に描くばかりで完成しようがしないが、彼が許す限り紙に描き込んだ。その時は、達成感ばかりが、僕を包んでいた。
背中をかきたかったから、彼がどんな顔をしているかは分からなかった。時間が来て、途中なのか完成なのか分からない乱雑に描き込まれた紙を覗いた綾小路が、「ふーん」と、零した口元を見たのを覚えてる。
最後に、絵と、実物の背中を一枚写真に撮らせてくれと頼んだら、了解してくれた。絵を黒板の縁に立てかけて、横に彼が立つ。シャンとした背中と、紙の中の背中がコチラを向く。パチリと一枚撮った。
「現像したら君にも一枚あげようか?」
モデルをしてくれた記念写真みたいな感じだった。彼は、自分の背中の写真なんて要らないと、断って、
「変わりにお前の汚れた手の写真くれ」と、言った。
僕の両手は、鉛筆の粉で酷く汚れていた。指先も紙を擦ったりして黒くて間抜けに見えた。それを僕のカメラを撮った綾小路がパチリと撮る。何で汚れた手の写真なんか欲しがったのか分からないけど、それで満足するなら、また描いた時の写真もあげるから、またモデルになって欲しかった。
そのとき次回を約束したわけじゃないのに、綾小路は出来上がった写真を渡した時に次を受け入れてくれた。時間は割き過ぎて、あやふやな決めごとだったのに、二度目は来た。
今度は真後ろでなく、後ろ斜め方向から見える背中を描いた。
椅子に座って、本を読んで居る綾小路が、開けた窓から教室に入り込んでくる風に前髪を遊ばれて、掻き揚げたりしたのを見た。
目線は本に落とされて、どんな内容の本を読んで居るのか分からなかったけど、表情も変えずに、文字の上をスルリと滑るように読み進んでいた。
僕の手は、紙の上をスルリと滑るようには進まなかった。綾小路を観察してたような。
あまりにもジロジロと見るので、「手が止まってるぞ」っと、数回指摘を受けた。「うるさいなぁ」っと、零す言葉と共に紙に向き直って少し描く。そんな時間だった。折角の貴重な時間なのに、僕は全く身が入っていなかった。
時間なんてあっという間に過ぎて、ちょうど本を読み終えた綾小路が、また紙を覗き込んできた。「ふーん」と、前回と同じような反応をした。
僕にはそれが、あまり進んでいない事に対する落胆の色にうつって、絵が寂しそうに感じた。また、写真を一枚お願いする。絵を手に持った綾小路がどんな顔をすれば良いのか分からないと言った。
今まで背中しか。表情は見えなかったから。
「適当に笑えばいいよ」投げ遣りな言葉に、「お前、なんか元気無いな」と、返され、困ったような顔をした彼の写真を一枚撮った。
今日は僕の手はあまり汚れていない。
「君も記念に要るかい?」
「要らない、変わりに、お前を撮ってやる」
なんだか上手に笑えない僕の顔を笑いながら、彼は一枚撮った。
現像して僕の写真を渡したら、別に要らないと返された。彼の考えてる事は全く分からない。
三度目は、もう次が無いかもしれないと思うと、丁寧に描かなきゃ、納得いくようなものをっと、追い立てるような気持ちになっていた。あと数日で、学校に来なくても良い僕たちだから。
椅子に座って、真っ直ぐな背中を見た。大好きな背中。間にも何度も思い出して描いていた綾小路の背中。ずっと惹き付けられたまま。授業中もノートの端に何度も描いた。紙と鉛筆が無い時も何度も頭の中に描いた。
なのに、上手に描けない。目の前にあるのに。別に模写をしたいわけでもないから、似ている似ていないの問題でもないのに。上手下手で測るものじゃないのに。
暇つぶしに持ってきたトランペットが軽やかな曲をならす。僕の気持ちとは正反対だ。リズムを取るように少し上下する。後ろからもチラリと見える指が嬉しそうに跳ね動く。
僕の鉛筆は、思うように描けない。自然と溜息が零れて、納得のいかない線をまた消しゴムで消した。苛立がそのまま動きに、乱暴な消し方で、ついに絶えきれなくなった画用紙がグシャリと拉げた。
「あーぁ」と、僕と綾小路の声が重なった。椅子の背に肘を置いてコチラを振り返って見ている彼と目が合う。正直に、「今日はなんだか上手に描けない」と、言うと、「そんな日もある」と、潔く言い放った綾小路が僕のモヤモヤを吹き飛ばすように、プワンッと大きな音を吹いた。
「今日は、絵が描けないから、写真を何枚か撮っていいかい?」
好きにすればっと、言うように音がなった。
しわくちゃの画用紙を丸めて、教室はしのゴミ箱に投げ捨てた。
end.
「しわくちゃの画用紙」 配布元:迷子はココにいるよ 様
学怖の風綾で、風間君が美術部のお題になります。
前に書いた「背中」「静止」の続きみたいなのになると良いです。
- しわくちゃの画用紙 -
納得の行く所まで描きたいのに、線を描いても描いても良いと思えるものが描けない。
ただ真っ直ぐな線、滑らかに曲がる線、ギコチナく折れた線、1つ1つが集まって完成に近づく。真っ直ぐでもない、曲線でもない、折れようが、点になろうが、どれも違う。何度も描いては消しての繰り返し。
文具屋で大量買いした画用紙は消しゴムに強く擦られて、部分的に捲れて貧そうなものに、チリチリと紙の繊維が痛んで余計に良いラインが描けない。
今まで幾度も彼を描いていたのに。
目の前には、椅子に座ってトランペットを練習している綾小路がいる。場所は教室。
モデルになってと言うお願いをやっと聞き入れてくれてから、二度、彼をモデルにして描いた。
彼の部活の関係もあり、開いている放課後を狙って、描いた。三年生は時間がない。部活動の総まとめとなる大会が終わったからと言って、すぐに、受験、最後の体育祭、文化祭、イベントはギュウギュウ詰め。
僕も彼もそれなりに楽しんだけど、絵を描くチャンスはなかなか取れなかった。進学先も決まった、最後のテストも終わった。あとは、卒業を待つばかり。授業も進める所がなくて、半日か卒業式の練習ぐらい。沢山の人数を抱えてるこの高校は、代表者が数人動くぐらいで、大半は椅子に座って、退屈な時間を過ごす。
受験も終わって勉強から解放された学生達が夜更かしして、昼間は退屈と眠気と戦う。そんな日々の中の三度目。
教室には、僕と綾小路しか居ない。
初めて彼をモデルとして目の前にした時、僕は舞い上がった。今までは想像や記憶でしか描いた事なかった彼の背中を、今度は実物を前にして描けるなんて。頭の中で反芻する背中でなく、今目の前で呼吸をして密かに動く背中。
身体に一本芯が通ったみたいに真っ直ぐに伸ばされた背中、首、頭が連なる。
一度目は、納得行くか行かないかではなく、少々熱に浮かされたように、紙に一心に描くばかりで完成しようがしないが、彼が許す限り紙に描き込んだ。その時は、達成感ばかりが、僕を包んでいた。
背中をかきたかったから、彼がどんな顔をしているかは分からなかった。時間が来て、途中なのか完成なのか分からない乱雑に描き込まれた紙を覗いた綾小路が、「ふーん」と、零した口元を見たのを覚えてる。
最後に、絵と、実物の背中を一枚写真に撮らせてくれと頼んだら、了解してくれた。絵を黒板の縁に立てかけて、横に彼が立つ。シャンとした背中と、紙の中の背中がコチラを向く。パチリと一枚撮った。
「現像したら君にも一枚あげようか?」
モデルをしてくれた記念写真みたいな感じだった。彼は、自分の背中の写真なんて要らないと、断って、
「変わりにお前の汚れた手の写真くれ」と、言った。
僕の両手は、鉛筆の粉で酷く汚れていた。指先も紙を擦ったりして黒くて間抜けに見えた。それを僕のカメラを撮った綾小路がパチリと撮る。何で汚れた手の写真なんか欲しがったのか分からないけど、それで満足するなら、また描いた時の写真もあげるから、またモデルになって欲しかった。
そのとき次回を約束したわけじゃないのに、綾小路は出来上がった写真を渡した時に次を受け入れてくれた。時間は割き過ぎて、あやふやな決めごとだったのに、二度目は来た。
今度は真後ろでなく、後ろ斜め方向から見える背中を描いた。
椅子に座って、本を読んで居る綾小路が、開けた窓から教室に入り込んでくる風に前髪を遊ばれて、掻き揚げたりしたのを見た。
目線は本に落とされて、どんな内容の本を読んで居るのか分からなかったけど、表情も変えずに、文字の上をスルリと滑るように読み進んでいた。
僕の手は、紙の上をスルリと滑るようには進まなかった。綾小路を観察してたような。
あまりにもジロジロと見るので、「手が止まってるぞ」っと、数回指摘を受けた。「うるさいなぁ」っと、零す言葉と共に紙に向き直って少し描く。そんな時間だった。折角の貴重な時間なのに、僕は全く身が入っていなかった。
時間なんてあっという間に過ぎて、ちょうど本を読み終えた綾小路が、また紙を覗き込んできた。「ふーん」と、前回と同じような反応をした。
僕にはそれが、あまり進んでいない事に対する落胆の色にうつって、絵が寂しそうに感じた。また、写真を一枚お願いする。絵を手に持った綾小路がどんな顔をすれば良いのか分からないと言った。
今まで背中しか。表情は見えなかったから。
「適当に笑えばいいよ」投げ遣りな言葉に、「お前、なんか元気無いな」と、返され、困ったような顔をした彼の写真を一枚撮った。
今日は僕の手はあまり汚れていない。
「君も記念に要るかい?」
「要らない、変わりに、お前を撮ってやる」
なんだか上手に笑えない僕の顔を笑いながら、彼は一枚撮った。
現像して僕の写真を渡したら、別に要らないと返された。彼の考えてる事は全く分からない。
三度目は、もう次が無いかもしれないと思うと、丁寧に描かなきゃ、納得いくようなものをっと、追い立てるような気持ちになっていた。あと数日で、学校に来なくても良い僕たちだから。
椅子に座って、真っ直ぐな背中を見た。大好きな背中。間にも何度も思い出して描いていた綾小路の背中。ずっと惹き付けられたまま。授業中もノートの端に何度も描いた。紙と鉛筆が無い時も何度も頭の中に描いた。
なのに、上手に描けない。目の前にあるのに。別に模写をしたいわけでもないから、似ている似ていないの問題でもないのに。上手下手で測るものじゃないのに。
暇つぶしに持ってきたトランペットが軽やかな曲をならす。僕の気持ちとは正反対だ。リズムを取るように少し上下する。後ろからもチラリと見える指が嬉しそうに跳ね動く。
僕の鉛筆は、思うように描けない。自然と溜息が零れて、納得のいかない線をまた消しゴムで消した。苛立がそのまま動きに、乱暴な消し方で、ついに絶えきれなくなった画用紙がグシャリと拉げた。
「あーぁ」と、僕と綾小路の声が重なった。椅子の背に肘を置いてコチラを振り返って見ている彼と目が合う。正直に、「今日はなんだか上手に描けない」と、言うと、「そんな日もある」と、潔く言い放った綾小路が僕のモヤモヤを吹き飛ばすように、プワンッと大きな音を吹いた。
「今日は、絵が描けないから、写真を何枚か撮っていいかい?」
好きにすればっと、言うように音がなった。
しわくちゃの画用紙を丸めて、教室はしのゴミ箱に投げ捨てた。
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