box。

- 煙 -


久しぶりに会った先輩は、全くの別人だった。
プァッと、煙を上に向けてだらしなく吐き出した。
町でばったり会った。卒業後から何か繋がりがあるわけでもなく、でもずっと好きだった人。
人懐っこそうな雰囲気はそのままに、声をかけられた。
振り返ったらまさか彼が居るなんて。
「久しぶり」「元気？」っと、やり取り。
砕けた調子で肩を引き寄せられた。一瞬ドキリとしたけど、強いタバコの匂いがした。

お昼食べた？ファミレスでも行こうよっと、誘われてついていく。
なんだか、見た目はそのままだし、喋り方も彼のままなのに、強い違和感が拭えない。
誘われるままに店についていくくせに、話す言葉が出てこない。
ファミレスに入り、店員にピース付きで「二名」っと言ったのは良かったけど、「喫煙席で」
そう続いた言葉に、何故だかスゴく逃げ出したくなった。

あぁ、何も変わらないのに。
彼は彼のままなのに。

白い煙が口から零れる。
最初は輪郭があるのにモヤモヤと回りに消えていく。
「何食べる？」っと、気を聞かせて、メニューをこちらに向けてくれるのに。
ニッコリと笑った顔は、全然変わってないのに。
何が変わったんだろう。
見る側の自分が変わってしまったんだろうか。
それとも、あまりにも長い片思いに、記憶が美化されたんだろうか。

夢は、夢のままで。

そう思ったら、「すみません」っと、すぐに起ち上がった。
「俺、用事があるの忘れてました」
彼の返事を待たずに、頭を下げて、逃げるように店を出た。
「え？」と、驚いた顔をした彼の口には、煙草がくわえられていた。

さよなら好きだった人。



end.
煙って、お題で、テニスメンバーはスポーツやる子達だから、誰が・・・っと、考えて、一番ジロちゃんがしっくり来たので＾＾；
忍足くんも悪くはなかったけど、長くなりそうな妄想だったので、サラッとジロちゃんの方で！