跡日/公園(title)
お題十つ目。「公園」(配布元:RUTH 様)
テニスの跡日です。
- 公園 -
「冬、ですね」
「冬、だな」
ハァッと吹きかけた息は外気に一瞬で冷やされて、少しの距離なのにひやりと冷たかった。
寒くないか?と、問いかけられて、寒いですねっと。
さっきから、どちらかが喋って、オウムのように返事をする遣り取りばかり。
本当は、アレもコレも聞きたいし、アレもコレも聞いて欲しいはずなのに。
部活を引退しても、学業に、家業に、習い事・・・他、俺が分からないような理由で忙しい跡部さんと、学校以外で久しぶりに会えたのに。
折角、二人で公園に来たのに。
冬なのに、線香花火みたいにジリジリと解けそうな夕日が沈んでいく。
睫毛に乗り上げる赤い光が眩しい。
歩いていて、途中、ベンチに座った。
どちらかが、示したわけでもなく自然と。
隣との距離は30センチ程。
離れ過ぎ泣きもするけど、この距離を縮めるすべを知らない。
それに、久しぶりでお互いにぎこちない。
「跡部さん」と、名前を呼んでも特に言葉は出てこなかった。
何度か名を呼んで、彼も「うん」っと答えるだけで、何もない。
忙しい時間を割いて、俺を呼びにきて、「散歩でも」
誘ったくせに、ノープラン。サプライず好きの彼が”何もない”を演出するなんて、おもしろい。
それに、断る選択もなく、ついて来た。
折角あえたのに、言葉が出ない。そんなまま公園を歩いた。
冷たいベンチに腰を下ろして、ボンヤリとしながら名前を呼ぶだけ。
腕時計は無情にも進んでいく。
「このあと、用事あるんですか?」
彼も時計をチラリと見て、「あるな、夜は食事会だ、親の付き合いの、付き合いだ」
まだ、子供なのに、大人の食事会に行くのは大変だろう。
また無言になる。言葉の引き出しが寒さで開かないみたいだ。
ただ開けれるのは彼の名前だけ。
こんなにも名を呼ばれて不快だろうなっと思ったけど、チラリと顔を盗み見ると、別に嫌そうな雰囲気はなかった。
「なんか、名前ばっかり呼んですみません、久しぶりに”あとべさん”って、呼ぶから、なんか・・・・嬉しくて」
ギコチナくはにかんだ顔と、嬉しいと言葉にした途端に、あぁ、自分は本当に嬉しいんだなっと胸が温かくなった。
「そうか」っと、満足そうに笑った彼が、俺の頭を撫でて、「俺も一杯呼ばれて嬉しい。日吉の声で名を呼ばれるのが心地良いよ、ありがとう、わかし」
最後に俺の名をゆっくりとなぞるように口にして、前髪越しの瞼にキスを落とした。
「外ですよ、場をわきまえて下さい、けいごさん」
次は何時、あえるかな。
あなたの声で呼んで欲しいよ。普通の名前なのに、魔法の言葉みたいだ。
end.
テニスの跡日です。
- 公園 -
「冬、ですね」
「冬、だな」
ハァッと吹きかけた息は外気に一瞬で冷やされて、少しの距離なのにひやりと冷たかった。
寒くないか?と、問いかけられて、寒いですねっと。
さっきから、どちらかが喋って、オウムのように返事をする遣り取りばかり。
本当は、アレもコレも聞きたいし、アレもコレも聞いて欲しいはずなのに。
部活を引退しても、学業に、家業に、習い事・・・他、俺が分からないような理由で忙しい跡部さんと、学校以外で久しぶりに会えたのに。
折角、二人で公園に来たのに。
冬なのに、線香花火みたいにジリジリと解けそうな夕日が沈んでいく。
睫毛に乗り上げる赤い光が眩しい。
歩いていて、途中、ベンチに座った。
どちらかが、示したわけでもなく自然と。
隣との距離は30センチ程。
離れ過ぎ泣きもするけど、この距離を縮めるすべを知らない。
それに、久しぶりでお互いにぎこちない。
「跡部さん」と、名前を呼んでも特に言葉は出てこなかった。
何度か名を呼んで、彼も「うん」っと答えるだけで、何もない。
忙しい時間を割いて、俺を呼びにきて、「散歩でも」
誘ったくせに、ノープラン。サプライず好きの彼が”何もない”を演出するなんて、おもしろい。
それに、断る選択もなく、ついて来た。
折角あえたのに、言葉が出ない。そんなまま公園を歩いた。
冷たいベンチに腰を下ろして、ボンヤリとしながら名前を呼ぶだけ。
腕時計は無情にも進んでいく。
「このあと、用事あるんですか?」
彼も時計をチラリと見て、「あるな、夜は食事会だ、親の付き合いの、付き合いだ」
まだ、子供なのに、大人の食事会に行くのは大変だろう。
また無言になる。言葉の引き出しが寒さで開かないみたいだ。
ただ開けれるのは彼の名前だけ。
こんなにも名を呼ばれて不快だろうなっと思ったけど、チラリと顔を盗み見ると、別に嫌そうな雰囲気はなかった。
「なんか、名前ばっかり呼んですみません、久しぶりに”あとべさん”って、呼ぶから、なんか・・・・嬉しくて」
ギコチナくはにかんだ顔と、嬉しいと言葉にした途端に、あぁ、自分は本当に嬉しいんだなっと胸が温かくなった。
「そうか」っと、満足そうに笑った彼が、俺の頭を撫でて、「俺も一杯呼ばれて嬉しい。日吉の声で名を呼ばれるのが心地良いよ、ありがとう、わかし」
最後に俺の名をゆっくりとなぞるように口にして、前髪越しの瞼にキスを落とした。
「外ですよ、場をわきまえて下さい、けいごさん」
次は何時、あえるかな。
あなたの声で呼んで欲しいよ。普通の名前なのに、魔法の言葉みたいだ。
end.
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