box。

- 僕の好きな人 -


夏のベタつく空気、部屋の中に入ればヒンヤリと寒いくらい。
何人もの人が黒い服をまとって並んでいる。
まるで蟻の行列みたい。
みんな歩いていく、すすみ、立ち止まり、涙をこぼしたりする。
僕はただ、石みたいに表情が固まった綾小路の顔を見てる。
列には並べない。きっと、彼女もそれを求めてない。
小さな女の子が綾小路のズボンを引っ張る。
その子へ向ける顔だけが、少しだけ綻んで自然に揺らいだ。
白と黒でしか表現しちゃいけないみたいな場所。
白い光が照らす会場。痛い位に。
黒は濃くて熱い。

頭を下げたきり、あげれなくなった顔を浮かべる。
我慢をしてるんだろう。
先ほど、見た顔色が悪かった。
ちゃんと食べてるんだろうか？慌ただしさに負けて、そもそもの食欲が無いのかもしれないけど。
帰っていく人たちを見送る。目はボンヤリとうつろ。
あとは親族と僕。
最後になるように様子をうかがってた。
青い顔が僕を見て、視線をそらした。
「前から幸薄いって思ってたけど、その運の無さがあいつに向くなんて思ってなかったよ」
自分が嫌な思いしてるだけなら良かったのにな・・・・。
そう言った綾小路が無理矢理に笑った。
僕はソレを見てイライラした。

だけど、また会いにくるよっと、伝えた。
ズルい僕はもしかしたらついに彼の隣に立てるかもしれないと思ったから。
ずっと好きだ。今も、亡くなった奥さんを思い浮かべてる彼のことが。
彼女は一番彼の心の近くに居るままに死んだ。
僕は彼女を隔てても良いから近くに居たい。
弱ってる所に手を差し伸べる、ズルく楽な方法。
でも、長く思ってきた分、そんなルートを試したって良いじゃない。
だって、僕は彼と結婚も出来ないし、子も作れないから。
彼は子を作った。
彼の手に触れる小さな手を忌々しげに見た。
彼女の面影は確かにあって。僕は悲しくなった。

「バイバイ」っと、女の子に手を振った。
宣戦布告、試合開始の音がなる。
手を振って、背を向ける。勝負がつくのは何時なのか。
試合に誰が参加するのか。一人で足掻くだけのみっともないものにならないことを祈るばかり。
僕は、白黒の世界から一歩踏み出した。



end.
なんとなく書きたかった。
綾小路君の子供のこと、大っ嫌いな風間さん、滾る！
年齢としては３２歳位が良いです。２８で結婚と子供。