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- 楽しいゲーム -


――男二人しかいない部室で意味ありげににっこりと笑う古泉がナイトを動かしながら言った
問いかけられたキョンは古泉の行動を読んでいたのか考える時間もなくルークを動かし、すでに一人しか居なかったナイトを捕らえた
また一つ駒が減ったことに、大げさに溜息をついて続きを話し出した


この問題に、答えが、あるとか思いますか？
何事もマルとバツで分かれる世界でしょうか？
僕はあなたに好意を寄せている
さて、これはマルでしょうか。世間一般からすればバツでしょうか…
でも僕は、僕を否定したくないです
どのような条件下でも好きになってしまったのは事実
優等生だって間違えます
問題文を読んで何を問いかけているのか分からないことだってあるんです
あなたなら分かりますか？
正解と不正解の境界線はどこなんでしょうね
僕は知りたいです
コインの表裏はあんなにも近いのに心の表裏は遠い


は？好意を寄せている？
それがなんだ、おまえは目の前の試合を放棄してんのか？
誤魔化してしまおう、なんて考えはよせ
俺はもうすぐ圧勝しようとしてるのに悪足掻きもせずに他ごとに頭を使うとは、許されんぞ
黒に侵略されつつある白を見ろ、指揮官がそんなんじゃ白もさぞ心細いだろうな
世間一般とかどうでもいいんだよ
目の前のことに一生懸命になれ
優等生とか自分で言いやがって何様だよ
あぁ、優等生様か!
面倒くさい奴だな、マルとバツだけじゃない三角もあるんだよ
言うか、手前のクイーンをそんな場所においていいのか？
四方から狙われてるんだぞ、おまえの頭は回ってんのか？


おや、これはすみません
でも、僕にとって大事な問題でして。是非あなたの意見を聞きたいと思い話したまでです
そうですね、実におもしろい
言うなれば今の僕の状況は目の前のゲームと同じです
黒という社会に四方から囲まれて身動きもできない
僕を守ってくれるはずのナイトはすでに相手に捕らえられ、行き場をなくした僕は敵にさえすがりたい
丸く収まろうとする自分と、はみ出ても、なお、生き残り、
王であるあなたをさらってしまいたいと……


おい、頭大丈夫か？
はぁ、…また変な妄想にとりつかれてんのかよ？
おまえさ、もっと自信持てよ
クラスでは、不自由なくモテまくりの優等生。俺からしたら腹立たしいポジションでしかないがな
百歩譲っても認めてやるよ、おまえは胡散臭い笑顔だがイイ顔してるよ
若干、考え過ぎと妄想でネガティブなのは今回は目を瞑ってやる
さぁ、今度はおまえの番だぞ
どう逃げる？


顔…は気に入ってくださってるんですか？
ありがとうございます。ん？なんですか、その呆れたような顔は？
僕はあなたに褒められたのが嬉しいんです
そうですか、他に好いてもらえそうな場所はありませんか？
僕はあなたのはっきりとした性格や、平凡じみたところが好きですよ
あ、失礼。平凡なんて言葉は不適切でしたね。その、なんて言えば……
何というか、安心するんです
こうやってあなたとチェスを打ったりしながらダラダラと会話したり、
僕も一端の高校生で、あなたに恋する普通の男だという事です
だから、何ですかその目は？


呆れているんだよ、優等生くん
いや、これは呆れるを越えてお前という未知の生命体に驚いているという感覚に近いのかもしれん…
理解不能だ
そして、早く次の手を打て
……どうして、回りくどくする。伝えたいことに飾りをつけたりしすぎで言いたいことが全くわからない
周りの圧力に脅えて動けないってのはそれだけ想いが弱かったりする証拠なんじゃないのか？
一端の高校生だなんだと、喜んでるくせに高校生らしくない
周りの学生を見ろ、連中は結局は自分が可愛い。俺もそうだ
思い通りにならなくて癇癪を起こしたりワガママ言ったり
お前はどうだ
自分を第一に考えて、たまにはワガママになったり周りを振り回したりしてイイんじゃないか？


――古泉がポーンを一マス進めたところで、ガタンッと机が少し揺れて古泉に影がかかる
立ち上がったキョンを見上げるとネクタイを引っ張られ、キスをした


……どういう、…つもりですか？


俺は平凡な高校生だからな、好きだと思えば相手のことも考えずぶつかって行くのみなんだよ
それに、お前が俺に好意を見せたから踏み切ることにした
男同士って言う難解な壁も互いに好きなら藁の家の壁だ
……初めのお前の問いに答えてやろう、答えは丸だ
好きに間違ってるなんてないんだからな
そんで、お前はこれで落ちる、チェックメイトだ