box。

- もとの匂い -


女の子が好き。可愛いし、キレイだし、柔らかいし、気持ちいいし、僕に尽くしてくれるし、愛してくれるから。
気まぐれで扱いづらい所とかもあるけど、女の子が大好きだったのに、今は女の子が憎い。とてつもなく。
可愛らしいフレグランスに身を包んだり、大人ぶってスマートな匂いを付けたり。キレイに見せようと努力したり、あぁ、可愛いカワイイ。
そう思っていたのに、世の男性が俺以外全員滅びても良いと思うぐらいに好きだったのに、ホントどうしてくれるんだ、綾小路。

あぁ、好きだと思ったのは何時だったか。
突然過ぎて忘れてしまった。ずっと前からだったような気もするし、昨日からだったような気もする。
曖昧な中に僕は浮かされていた。いや、落ちていた。
女の子で好きだなっと思ったら即座に告白するのに。
相手が居ようと居なかろうと、それは僕自身に対しても。付き合ってる女の子より魅力的だったら交際を申し込んだって良いじゃないか。
天秤にかけたら、より魅力的なんだから。
男は元から、優れた遺伝子を来世に残すための本能があるんだ。
別の所ではそれを浮気癖と言うらしいが、そんな簡単じゃない。
バカにしないで欲しい。浮ついた気持ちじゃない、誰に対しても本気だったんだ。
でも、綾小路の事が好きになってから、浮気はイカンよなっと殊勝な事を考え、愚かな事に一瞬の思いつきに惑わされて、彼女たちとの縁を切った。
だから、だから早く、振り向いて欲しいのに、昨日知った新事実が僕を無気力にさせた。

ああぁ、女の子が憎い。男女の二パターン（一部を例外を除く）しかない、世界で、女性として産まれたってだけで綾小路に愛される権利を得るなんて。
許せない。どちらかと言えば、男である僕の方が彼の欲している物はよくわかるのに。女の子たちで磨き上げたもので、いくらでも気持ち良くしてあげれるのに。欲しいと言えば、いくらでも与えてやるのに。
だけど、どうやら綾小路は隣のクラスの女の子と付き合ってるらしい。
こんなにも思っているのに、彼のために女の子と別れたりしたのに。何故なんだ。
はぁっと、今日何度目かの溜息をついた。彼が彼女持ちと昨日知ってから、呼吸のように溜息を繰り返している。
朝は彼の顔が見たいがために学校に来て、ダルい授業と面倒くさい食事と、中身の無い会話で溢れた場所に無理無理来たのに・・・。
健気すぎる僕に涙が出そうだよ。
綾小路は僕の気持ちなんてカケラも気づいてない。噂の彼女とはどこまで進んだんだろう。付き合い始めたのは何時からだろう。
詳しく知りたい、いや、敵の事なんて知らなくても良い。早く別れてくれないかなぁ。そう思ったから直接、授業後、彼に言いにいった。

僕が声をかけると、驚いた顔をしてこちらを見た。
「なんだよ」と冷たい態度。ムカつく。けど、好き。
「彼女とは長いのかい？」
突然の問いかけに驚いて、そして、イラついたように関係ないと切り捨てられた。
「関係なくなんか無い。僕は知らなきゃいけないんだ。そして、忠告する、早く彼女とは縁を切るべきだ」
僕は君と円を繋げるために糸口を全て切ったんだからね。どこからでも繋がれる。笑顔を向けると「最低だな」っと軽蔑の眼差しが痛い。
どうして、どうして僕の誠意や思いやりが通じないんだ。彼女よりも絶対に僕の方が綾小路のことを思って考えてやってるはずなのに！
僕にイラついて彼は教室を出て行ってしまった。僕は帰る気も起こらず自分の席に戻って、朝から何度目かの溜息を吐いた。


ぼんやりと時間を惰性に過ごしていると、下校の時刻を告げる放送が入った。
もう、そんな時間か・・・っと、溜息をついて鞄に適当に荷物を詰めていたら、綾小路が教室に戻ってきた。
僕の存在に気づいて一瞬嫌そうにしたが無視を決め込む事にしたのか、そそくさと鞄を持って出て行こうとするので、咄嗟に僕は彼の前に立ちはだかった。
「邪魔だよ」っと目が言っている。仄かに綾小路から甘い匂いがした。
腹が立って、それを押さえ込もうとして、彼を抱き込んだ。ビックリして、抵抗されるが腕の中に押し込んだ。強い力で押し話そうとするけど、それごと抱きしめた。
「君の、今の匂い大っ嫌いだ。匂いに敏感なくせに、こんな時だけ、鈍感なんだから。スゴく嫌な匂いさせてるよ」
そう言ったら、足を思いっきり踏まれ、痛みに涙目になって彼を見上げると、「お前の匂いも俺は嫌いだよ」っと彼は帰っていった。



end.
嫉妬の匂いはどんな匂いだろうね。