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宮→←牧/桃缶

サイレンの宮田先生と牧野さんです。
風邪を引いた牧野さんが宮田さんに診てもらう話。
短いです。

- 桃缶 -


季節の変わり目。
この時期に何時もどんな服装で過ごせば良いのか悩んでしまって、いつも風邪を引く。
でも、実は風邪を引くのが好きだったりする。
不謹慎と言われるかもしれないけど、皆、優しくなる。
私を甘やかしてくる八尾さんはより甘やかしてくれる。
村の人たちも、毎年この時期に風邪を引く私に「恒例の?」なんて言ってマスクをして熱っぽい顔を見て笑ってくれる。
知子ちゃんは「風邪ひいて喉が痛いでしょ?」と甘い桃の缶詰をわけてくれる。
皆口々に「早くお医者に診てもらいなさい」と言ってくれる。
だから私は嬉しい。
堂々と、宮田さんに会いに行く資格を手に入れたように感じるから。
普段、彼を見つけても挨拶ぐらいしか交わせない。
お互いに気にしている素振りはあっても、それをわざと気づかないようにする。
チラリと目の端で追っても決して正面からは見据えない。
いつの間にか決まっていた二人の間の約束。

でも、今日は私は風邪をひいている。

正面からは行くけど、病院が閉まるギリギリに行く。
一日のお勤めもある、それと、宮田さんの邪魔になりたくないし、でも、終わる頃に伺いますと伝えてはある。
昼間、知子ちゃんから貰った桃缶を持って。
病院へ出向くと残っていた恩田さんがにっこりと笑って対応してくれた。
待ってる間、脇に挟んだ体温計がピピッと音を立てる。
宮田さんがいつもと変わらないぶっきらぼうな声で私を呼ぶ。
私の風邪ひきましたって顔を見て、声には出さないが顔に「またですか」と書いてある。
ホント、正直な方だ。
手に持っていた桃缶を差し出して「これ、前田さん所の知子ちゃんから沢山頂いたのでお裾分けです」
缶詰を見て「はぁ」と気のない返事をするが、一応は差し出したものを受け取ってくれる。
そして、いつもと同じように「すみません、いつもいつも季節の変わり目に体調を崩しまして・・・またよろしくお願いします」と頭を下げる。
返事とも付かない溜息が零され、病院をしめる準備をしてる恩田さんに「終わったら帰って頂いて結構ですから」と声をかけていた。
席に戻った宮田さんは、聴診器で身体の音を聞き、横になるよう促され、ライトで喉を照らされ、腹の辺りを触れる。
注射と点滴かなっと言った。
注射の方が早く済ませられるのは知っている。
手間を取らせないのも注射と知っていながら、「あの、食欲が無く、睡眠もあまりとれないんです」と言うと「では点滴を」と言って準備をしてくれる。
横になったままの私はその姿を見つめる。
ただ、針を刺す時だけは目をつぶるのは忘れない。

「二十分程ゆっくり、リラックスしてて下さいね」
形式的な言葉がかけられ、ぼんやりと熱っぽい目で彼を見上げた。
隣の部屋から恩田さんが「先生、先に帰らして頂きますね」と、私に「お大事にして下さいね」と声を描けて帰って行った。
診てもらって安心したせいなのか急に瞼が重たく感じて、緩い睡眠に落ちた。

「牧野さん?」と声が聞こえ、目を開けると横に立った宮田さんが私を見下ろしていた。
寝ぼけているからだろうか、優しく髪の毛を撫でてくれてるように感じる。
「薬が効いてきたかな、ぼんやりしますか?」と聞かれ「はい」と応える。
いつもと同じ形式。
「喉が痛いからって口当たりの良い缶詰ばかり食べるのは駄目ですよ」っと今日は他の言葉も聞けた。
何度風邪を引いても大抵この繰り返し、でも、この瞬間が宮田さんに優しくしてもらえる、だから私は風邪を引くのが好きだ。
ハッキリとしない意識の中で髪を撫でられたような、そうでないような。
これは私の欲が産み出した幻なのかもしれない。
夢か現かもわからないけど、感じる温かみが幸せで愛おしい。



end.
この後、家まで無事、牧野さんを運んでくれる宮田先生は天使!
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