風綾/静止
学怖の風綾です。
前書いた「背中」と繋がってます。
美術部の風間くんです、別人過ぎ注意です。
- 静止 -
結局、僕はまた彼に絵のモデルを断られた。二人だけの放課後の教室で。
あの時、綾小路は申し訳なさそうな顔をして「悪いけど・・・」と濁した。
何度も断ってるせいで本当に悪いなって思ったのかもしれない。
僕は真っ直ぐに彼を見上げた、下校時刻で見回りにきた先生がタイミング悪く入ってきてお互いに少しだけ視線をかわしただけ。
どちらが声を掛けるでもなく荷物を持って一緒に廊下を歩いた。
意味もなくお互いに緊張しているのがわかった。
僕が緊張してるのは、たぶん彼が好きだから。
好きだけど、今まで女の子に感じた好きとは違う好き。
でも、綾小路が緊張していた理由は今もわからない。
思い返してもイライラする。
帰り道に聞いた。
「なんで、駄目なの?」
「モデルなんかした事ないからどうしてれば良いのかもわからない、それに、・・・俺なんか描いても楽しくないと思うから」
そのセリフは前に一度聞いていたのと同じものだった。
でも、僕が綾小路の絵を描いてるって知ったはずなのに、楽しくないと言われるのは・・・。
悲しいよりも虚しく、そして、腹立たしかった。
僕がこんなにも君を描いて、描いて、描いてるのに。
僕の急に萎んだ態度を見て綾小路は「ごめん」と口にした。
それが余計にムカついた。
そして、突然立ち止まった僕を振り返った綾小路。止まるのが少し遅れたから数歩の距離が開いた。
手を伸ばせば届くのに手を伸ばさない。
「ごめんなんて、言わないでくれないか。僕は君が描きたいんだから」
鞄に押し込んであった彼の背中の絵の描かれたノートを綾小路に無理矢理渡して。
「コレ全部、家にあるクロッキー帳にも君を描いてるんだ」
と、あの日の僕は彼の目の前を走って逃げ出していた。
彼に描いたって楽しくないと言われた事、逃げるように去った僕。
どちらも苛立って許せない。
翌日から教室で顔を合わせても僕からは声もかけなかったし、目をそらすようになった。
綾小路はどこか僕を気にしてるくせに、性格的にも僕らの距離的にも近寄っては来なかった。
そんな慣れ沿った仲じゃないのは元々だ。
正直、僕が背中を描きたいと思って声をかけたのが学校の事務的な言葉以外で初めてだったと思うし。
普段女の子と喧嘩したって、すぐに謝ってすぐにも修正出来るのに。
綾小路との苛立ちで毛羽立った気持ちは何日も修正出来なかった。
それでも僕は彼の目を盗んでは彼を見て、彼の絵を描き続けてる。
変わったのは、背中だけでなく顔や指腕もよく描くようになった。
顔は盗み見てるせいで横顔などが多いけど。
友人たちとお喋りして笑ってる彼を見た、先生に頼まれて少し面倒くさそうな顔の彼を見た。
帰りのホームルーム時間は早く部活に行きたそうに少しソワソワしてるのがわかるようになってきた。
今まで殆ど背中ばかり見てたんだな。
部活に急にやる気になった僕を見て美術教師はとても嬉しそうだ。
たぶんあの教師は絵に集中してるヤツが好きなんだ。上手い下手で考えず気持ちが。
だから「君はいつも背中を描いているね」と声をかけられても「好きなんです」と素直に返せた。
鉛筆をカッターで削り、ちびこけた消しゴムで線を消す。
紙の上を滑る鉛筆はすぐに縮んでいく。
たった数時間の部活時間なのに利き手の側面は鉛筆の黒が擦れて黒銀色に。
集中していてあっという間に下校時間。教師に声をかけられるのが終了の合図。
チラリと外を見ると太陽ももうすぐ沈むぐらいだ。
油やアクリルでそれぞれに絵を描いていた部員たちが片付け始める。
彼らが水場を使うから僕はサッサと廊下の洗い場に汚れた手を洗いにいく。
廊下に出ると後ろから走る足音がして背に衝撃。
吃驚して後ろを見ると綾小路が肩からぶつかってきたみたいで、僕の背中にあてた額を手で押さえてる。
何か躓いたのかな。冷静な振りして少し抜けてるよね、君って。
マスクで顔を半分以上隠した綾小路が「いてぇ」と零して僕の手を突然掴んだ。
「え、何?」
状況がつかめない、僕の手を引っ張って手をまじまじと見てる。
画面と擦れて汚れた手を見て、「また、描いてたんだな」と穏やかな問いかけ。
描いてたよ、君をね。
いきなりの登場に手を掴まれて、そんなセリフ。
コクリと頷く事で返した。彼の指が硬く少しだけ膨らんだ胼胝(たこ)に触れる。
「これ」
差し出されたものは見慣れないロゴの入ったビニールの手提げ袋。
厚みは薄く、何が入ってるのかわからないけど、受け取ると掴まれていた手も放された。
袋を覗き込むと先日押し付けたノートだった。
要らないって返されたのかな。別にもらって欲しくて渡した訳じゃないけど。
ただ、僕が綾小路を描き続けてるってことをわかって欲しかっただけ。
なんでって聞きたかったけど声が出なかった。
ぼんやりと窓か指さし込む夕日色に染まる綾小路を見つめた。
「見た、それ。絵、上手いな」
短くちぎれる言葉が耳に届く、彼は目の前に立っている。頷いて続きを促す。
「お前さ、その、なんつーか。・・・俺のことスゴい描いてる」
そう冗談みたいに言って綾小路は目を細めて恥ずかしそうに笑った。
「そうだよ、僕は君を描きたいんだ」
「・・・・ありがとう、わかんないけど」
わかんないと正直に言うのが実に綾小路らしい。わからないものはわからない。
「ふーん、ま、いいよ」
ここ数日、気にしていたが嘘みたいに普通な態度に戻ってる。
廊下で立ち話をする僕に先生が教室から顔を出し、「早く帰る用意しろ」と声をかけた。
「はーい」とお互いの声が重なった。
「じゃぁ、手洗うから」と、身体の向きを変えると「絵のモデルなるよ」
小さな声が聞こえた。
驚いて目を真ん丸にして振り返ったら、下向いて前髪とマスクで全然顔が見えない。
聞こえてたのに「え?」と聞き返す。
「お前、俺のこと好き過ぎ」と、また小さな声で言われた。
綾小路の言う好きの種類はわからないけど、嬉しくて今度は僕が体当たりをするような勢いで彼の身体に抱きついてやった。
「おい、帰る準備するんだろ。離れろ」
「うん、そうだけど。ありがとう」
「ちょっとしか、ジッとしてないからな」
「良いよ、ちょっとで」
僕のために時間を作ってくれるんだ。念願の本物を目の前にして絵が描ける。
嬉しくてギュウッと腕に力を入れるとずっと描いていた背中の温かさを感じて余計に嬉しくなった。
そこにまたタイミングの読めない教師が「時間だぞ」と声をかけてきた。
「はーい」とお互いの声がまた重なって、何故だかとても可笑しかった。
end.
よかったね、風間くん!念願のモデルゲット。
前書いた「背中」と繋がってます。
美術部の風間くんです、別人過ぎ注意です。
- 静止 -
結局、僕はまた彼に絵のモデルを断られた。二人だけの放課後の教室で。
あの時、綾小路は申し訳なさそうな顔をして「悪いけど・・・」と濁した。
何度も断ってるせいで本当に悪いなって思ったのかもしれない。
僕は真っ直ぐに彼を見上げた、下校時刻で見回りにきた先生がタイミング悪く入ってきてお互いに少しだけ視線をかわしただけ。
どちらが声を掛けるでもなく荷物を持って一緒に廊下を歩いた。
意味もなくお互いに緊張しているのがわかった。
僕が緊張してるのは、たぶん彼が好きだから。
好きだけど、今まで女の子に感じた好きとは違う好き。
でも、綾小路が緊張していた理由は今もわからない。
思い返してもイライラする。
帰り道に聞いた。
「なんで、駄目なの?」
「モデルなんかした事ないからどうしてれば良いのかもわからない、それに、・・・俺なんか描いても楽しくないと思うから」
そのセリフは前に一度聞いていたのと同じものだった。
でも、僕が綾小路の絵を描いてるって知ったはずなのに、楽しくないと言われるのは・・・。
悲しいよりも虚しく、そして、腹立たしかった。
僕がこんなにも君を描いて、描いて、描いてるのに。
僕の急に萎んだ態度を見て綾小路は「ごめん」と口にした。
それが余計にムカついた。
そして、突然立ち止まった僕を振り返った綾小路。止まるのが少し遅れたから数歩の距離が開いた。
手を伸ばせば届くのに手を伸ばさない。
「ごめんなんて、言わないでくれないか。僕は君が描きたいんだから」
鞄に押し込んであった彼の背中の絵の描かれたノートを綾小路に無理矢理渡して。
「コレ全部、家にあるクロッキー帳にも君を描いてるんだ」
と、あの日の僕は彼の目の前を走って逃げ出していた。
彼に描いたって楽しくないと言われた事、逃げるように去った僕。
どちらも苛立って許せない。
翌日から教室で顔を合わせても僕からは声もかけなかったし、目をそらすようになった。
綾小路はどこか僕を気にしてるくせに、性格的にも僕らの距離的にも近寄っては来なかった。
そんな慣れ沿った仲じゃないのは元々だ。
正直、僕が背中を描きたいと思って声をかけたのが学校の事務的な言葉以外で初めてだったと思うし。
普段女の子と喧嘩したって、すぐに謝ってすぐにも修正出来るのに。
綾小路との苛立ちで毛羽立った気持ちは何日も修正出来なかった。
それでも僕は彼の目を盗んでは彼を見て、彼の絵を描き続けてる。
変わったのは、背中だけでなく顔や指腕もよく描くようになった。
顔は盗み見てるせいで横顔などが多いけど。
友人たちとお喋りして笑ってる彼を見た、先生に頼まれて少し面倒くさそうな顔の彼を見た。
帰りのホームルーム時間は早く部活に行きたそうに少しソワソワしてるのがわかるようになってきた。
今まで殆ど背中ばかり見てたんだな。
部活に急にやる気になった僕を見て美術教師はとても嬉しそうだ。
たぶんあの教師は絵に集中してるヤツが好きなんだ。上手い下手で考えず気持ちが。
だから「君はいつも背中を描いているね」と声をかけられても「好きなんです」と素直に返せた。
鉛筆をカッターで削り、ちびこけた消しゴムで線を消す。
紙の上を滑る鉛筆はすぐに縮んでいく。
たった数時間の部活時間なのに利き手の側面は鉛筆の黒が擦れて黒銀色に。
集中していてあっという間に下校時間。教師に声をかけられるのが終了の合図。
チラリと外を見ると太陽ももうすぐ沈むぐらいだ。
油やアクリルでそれぞれに絵を描いていた部員たちが片付け始める。
彼らが水場を使うから僕はサッサと廊下の洗い場に汚れた手を洗いにいく。
廊下に出ると後ろから走る足音がして背に衝撃。
吃驚して後ろを見ると綾小路が肩からぶつかってきたみたいで、僕の背中にあてた額を手で押さえてる。
何か躓いたのかな。冷静な振りして少し抜けてるよね、君って。
マスクで顔を半分以上隠した綾小路が「いてぇ」と零して僕の手を突然掴んだ。
「え、何?」
状況がつかめない、僕の手を引っ張って手をまじまじと見てる。
画面と擦れて汚れた手を見て、「また、描いてたんだな」と穏やかな問いかけ。
描いてたよ、君をね。
いきなりの登場に手を掴まれて、そんなセリフ。
コクリと頷く事で返した。彼の指が硬く少しだけ膨らんだ胼胝(たこ)に触れる。
「これ」
差し出されたものは見慣れないロゴの入ったビニールの手提げ袋。
厚みは薄く、何が入ってるのかわからないけど、受け取ると掴まれていた手も放された。
袋を覗き込むと先日押し付けたノートだった。
要らないって返されたのかな。別にもらって欲しくて渡した訳じゃないけど。
ただ、僕が綾小路を描き続けてるってことをわかって欲しかっただけ。
なんでって聞きたかったけど声が出なかった。
ぼんやりと窓か指さし込む夕日色に染まる綾小路を見つめた。
「見た、それ。絵、上手いな」
短くちぎれる言葉が耳に届く、彼は目の前に立っている。頷いて続きを促す。
「お前さ、その、なんつーか。・・・俺のことスゴい描いてる」
そう冗談みたいに言って綾小路は目を細めて恥ずかしそうに笑った。
「そうだよ、僕は君を描きたいんだ」
「・・・・ありがとう、わかんないけど」
わかんないと正直に言うのが実に綾小路らしい。わからないものはわからない。
「ふーん、ま、いいよ」
ここ数日、気にしていたが嘘みたいに普通な態度に戻ってる。
廊下で立ち話をする僕に先生が教室から顔を出し、「早く帰る用意しろ」と声をかけた。
「はーい」とお互いの声が重なった。
「じゃぁ、手洗うから」と、身体の向きを変えると「絵のモデルなるよ」
小さな声が聞こえた。
驚いて目を真ん丸にして振り返ったら、下向いて前髪とマスクで全然顔が見えない。
聞こえてたのに「え?」と聞き返す。
「お前、俺のこと好き過ぎ」と、また小さな声で言われた。
綾小路の言う好きの種類はわからないけど、嬉しくて今度は僕が体当たりをするような勢いで彼の身体に抱きついてやった。
「おい、帰る準備するんだろ。離れろ」
「うん、そうだけど。ありがとう」
「ちょっとしか、ジッとしてないからな」
「良いよ、ちょっとで」
僕のために時間を作ってくれるんだ。念願の本物を目の前にして絵が描ける。
嬉しくてギュウッと腕に力を入れるとずっと描いていた背中の温かさを感じて余計に嬉しくなった。
そこにまたタイミングの読めない教師が「時間だぞ」と声をかけてきた。
「はーい」とお互いの声がまた重なって、何故だかとても可笑しかった。
end.
よかったね、風間くん!念願のモデルゲット。
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