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宮牧/遠く溶ける

サイレンの宮田先生と牧野さんです。
宮牧書きたいけど久しぶりだからリハビリに短い雰囲気もの。



- 遠く溶ける -


夕日が沈んで行くのを眺めながらゆっくりと家路をたどる。
赤く染まった時間を目を細めて眺めた。
坂を上がった所のバス停のベンチに腰を下ろしてる牧野さんを見つけた。
彼は何処かぼんやりと空を眺めている。
遠くを見て近づいてきた私にも気づいてない。
牧野さん、名前を呼ぶと驚いて身体が跳ねた。
「み、やたさんじゃないですか。ビックリしましたよ」
声が裏返って苦笑いの表情を見下げる。
会話が続かない。何を話せば良いのかわからない。
ただ立ち去るのも惜しいような気がする。
沈黙がやってきて私達を埋める。
彼は一瞬悩んで短く「どうぞ」と言って空いているベンチのスペースをさした。
ゼリーみたいに重い夏の空気の中をかくようにぎこちない動き。
二人の表情もぎこちない。
「何をしているんですか?」
気になっていたので聞いてみた。
いつも彼を見かけるときは、あの女が居るから気になっても聞けないでいる。
形だけの挨拶みたいなセリフを言うのさえぎこちない。
普通を装って普段の自分を忘れてしまった。
「夕日を、見ているんですよ」
私の問いかけに普段はオドオドしているのに、温かな夕日に照らされているからなのか穏やかな笑顔が向けられる。
柔らかで温かな赤で満たされた空間。
スイッと向けられた牧野さんの視線に釣られるように山の木々に沈んで行く光を見た。
二人とも黙ったまま。
じわりじわりと溶けるような赤と滲み広がる夜の濃い青が混ざりあう。
「キレイ、ですね」
「キレイですね」
今、二人の目には同じ物が映っていて、同じように美しさに感動している。
お互い違う環境で育ってきたのに。
「宮田さんは、帰り道ですか?」
「はい、夜になったら帰ります」
夜はもう目前。

太陽が完全に沈んで夜になった。
小さなバス停の街灯がともる。
黄色くかすんだ明かりが二人を照らした。
「キレイでしたね」
「ですね」
また同じ言葉を繰り返し言った。忘れないように。
「夜になっちゃいましたね」
「夜ですね」
「帰りましょうか」
そのセリフは同じ場所に帰る人に向けるように感じた。
だから、「えぇ、家に帰りましょう」と別の場所に帰る事を強く含んだ。
さっきまで嬉しそうだったのに、私に見せる普段通りの困り顔に戻った牧野さんが足下を見た。
途中まで一緒にと言わなくてもこの道は一本。
同じタイミングで歩き始める。坂を下ってしまえば分かれ道だ。
「それでは、また」
子供みたいに小さく手を振られた。真似て手を挙げると口元が綻んだ。
もう、夕日は沈んで温かな空気に包まれては居ないのに。
「気をつけて、帰って下さいね」
「はい、宮田さんも気をつけて」
それぞれの道へ身体を向け、すぐに後ろを振り返ると牧野さんもこちらを振り返っていた。
普段と変わらぬ困った顔を浮かべながら何か言いたげに口を開けて、黙った。
「また、夕日が見れたら一緒に見ましょう」
そういうと、嬉しそうに「もちろんです、また」と返事をして牧野さんは帰って行った。
またねっと声には出さないで彼の背中に投げかけて、自分も家路をたどった。

いつ、なんて約束はしてないけど、近い将来、またあの溶けるような夕日を共に見るだろう。


end.
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