box。

- ポラ -


なんとなく跡部さんの家に来たら運悪く不在で、携帯も持っていない
最悪…
自分が悪いのでゆく宛のないイライラが渦巻く
ガツンと軽く扉を蹴りあげてポケットに手を入れた

「日吉、これやる」
「……」
じっと見上げると右手を前に出してくる跡部
真剣な顔に驚いた
不覚にもちょっとかっこいいなんて思ってしまった自分を振り払うよう照れ隠しをする
「……ゴミならいりませんよ？」
ぎこちなく笑って言うも彼は顔を崩してくれない
なんだよ…っと言う前にまたズイと手を出したので言葉を飲み込んでしまった
顔には受け取ってくれって書いてあったから素直に手を出してしまった
掌に乗った微かな重み

あの時は絶対に使わないと思ったのに律儀にも自分の鍵束にくくられる跡部さんの家の鍵
まだ一度も鍵穴に通してない
睨みつけても開くはずがないのはわかってる
そのまま重心を傾けてドアにもたれた
ぺたりと触れるのは金属質の冷たさだけ
ちょっと寂しくなったから、使ってあげないと可哀想だからなと鍵のせいにして扉を開けた
ギィッと耳につく音を立てて開いた扉を抜け中に入っても外と変わりなくガランとした空間が広がる
たった一人居なくとも家は成り立たないもんだ
ぼんやりと部屋を見回してから窓を開けた
開けると入り込む風に髪が揺れた
目を細めて空を見ると自分の気分とは違って晴れ渡った空
清々しく潔い青
ふんっと息を吐いてその場にしゃがみ込んだ
すぐ横に設置してあるベットにもたれ掛かる
カーテンで柔らかくなった日の光が部屋中を満たす
心地よさに目を閉じても眠気はやってこない
どうにかして時間を潰したいのに…
首を回してベットと反対側に位置する机の上を見るとゴツゴツとした黒いカメラ

「コレなに？」
「あ？…あぁ、ポラロイドカメラだよ、知らねぇのか？」
「見りゃわかります…」
見たことありますっと軽く胸をはったら笑われたのでムッとする
「…どうしたんですか？」
「ん？友達がくれたからありがたく貰っといた」
「あんたも友達に物をもらったりするんですね」
「どういう偏見だよ」
わざと興味ないですって感じで鼻を鳴らした
本当は興味あるのにガキみたいに目を輝かすのは格好悪いから
でも、その気持ちを隠しきれなかったのか、また笑われてしまった
「あの、撮っていいですか？」
「…被写体が俺でスマートに撮ってくれるならな」
「えー…」
俺の反応に苦笑いを浮かべた彼を一枚絵に起こした
ジーッとネジの巻ける音と同時にベロンとだらしなく垂れる写真
白の余白に寄せ書きをした

寄せ書きには何と書いたっけ？
１枚しか撮らなかった、もっともっと撮りたかった
いつも自分の見ているものを違う方向から見てみたかった
悪いかな？っと思ったのは一瞬で興味心は押さえることができなかった
カメラを手に取りレンズをのぞき込む
とりあえず、洗面台に行って生活感のある写真を一枚
もうそろそろ代え時の歯ブラシとカミソリを撮ってみた
出てきた紙をプラプラふって浮き上がる絵を見る
普通だ…
小さくうねり声をあげてから元居た場所へ
気持ちの良い青空、小さなくもが一つ浮かぶ
この青さを彼に見せてやるかと、もう一枚
机に２枚を並べて次ぎ撮るものを考える
いつも見ていて知らないもの…自分か？
思い立ったら、すぐ
カメラを自分のほうに向けてパシャリ
フラッシュが目にしみる
出てきた写真は無表情で愛想がない
ペンを見つけてきて前と同じように寄せ書きをした


「ただいま」と誰もいないのに帰宅の挨拶をする
ここでお帰りの一つでも聞こえれば嬉しいのに
ため息をつき足下に見知ったスニーカーが行儀よくそろえてあるのを見て笑顔が零れた
自分も靴を脱ぎ２組の靴をそろえておく
部屋に入っていくと風が流れてくる
ベットの方を見るとカメラを持ったまま日吉が寝ている
勝手に使いやがって…
笑って寝顔を見ると子供みたいな顔をして寝てる
周りに散らばる写真を手にとって見ると日吉の百面相…っとまではいかないが顔写真
笑顔に怒った顔に詰まらなそうな顔、スカした顔
どれも知っているけど知らない顔
だって、俺の居ない間の表情だから
余白にはコメントや落書き
早く帰ってこいよっと書いてあったり何かわからない生き物とか
まぁ、なんとも可愛いことをやってくれるんだか
カメラを拾い残り枚数を見るとできた話みたいにあと一枚
構えて彼の寝顔を撮った

彼の見たことない彼の素顔




***
あなたの笑顔を絵に起こす